桑田佳祐氏が作詞・作曲し、坂本冬美氏が歌唱し、ミュージックビデオには戸次重幸氏も出演する「ブッタのように私は死んだ」が、公開一か月半で再生回数100万回を突破したという。最近では瑛人氏の「香水」が爆発的ヒットとなったが、それに続く可能性が出て来たのが、この楽曲である。今年は何もかもが“リモート化”して、社会全体に或る種の“空虚感”が漂っている。実態を肌で感じられない、もどかしさがあるのだ。そういう時代となって、近年はどちらかといえば隅に追いやられてきた「具体的な名称」「リアルな感覚」の歌詞が多くの人の心を捉えた。「香水」では、言うまでもなく「ドルチェ&ガッバーナ」という“ブランド名”が印象に残る。また「ブッダのように私は死んだ」では、死後の言葉としての「みたらし団子が食べたい」が妙に効いているのだ。そう、人は最終的に、個人的に“好きなもの”“嫌いなもの”“欲しいもの”“忘れられないもの”などがある。死ぬ直前まで、それが気に掛かってならないことなどがある。それは個々に異なるもので、一時期、流行っていた“みんなに共通”などと言うようなものではない。“みんなに共通”なものや世界を描こうとするのは「みんなに好かれたい」という気持ちの表れで、どこか芸術として純粋ではない。だから、“みんなに共通”なものを描こうとすると、かえってみんなのこころには届かない。「ドルチェ&バッカーナ」や「みたらし団子」は、誰でもその名前だけは一応知っているが、好むかどうかは“その人しだい”なのだ。だから、かえって、その人の実像がイメージしやすい。自分は好まないが、そういう人が“そういう気持ち”をいだくのは理解できる、という好かれ方なのだ。「昭和歌謡」が年齢層に関係なく、当時の世相を牛耳って多くの人達に歌われたのは、常に、そういう“具体的名称”が歌詞の中に入っていたからだ。その方が“人生ドラマ”としてもイメージしやすい。最近の歌詞は“抽象的な言葉”を使い過ぎる。例えば「永遠に…」とか「真実の…」とか、聴く側には何が“永遠”なんだか、何が“真実”なんだか、さっぱり伝わらない。だから、ほんとうの大ヒットにならない。本当の“永遠”は死後に訪れるのだろうし、本当の“真実”は別れた後に実感したりする。経験談、特に失敗談は、どんな“理想論”よりも胸を打つ。人は一人ぼっちでいる時に“孤独”を感じるのではない。大勢の中の“独り”を感じた時に、たまらない孤独を感じるのだ。
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