私はときどき、自分が日本人らしい生活の仕方をしているのか疑問に思う。少なくとも“平安時代”のような生活からは程遠い。けれども日本に産まれ、日本人の両親を持ち、日本の大地で育ってきたから、日本人特有の「美」の感覚は、それなりに持っているのに違いない。“中秋の名月”を美しいと思う感覚は、その一つに違いない。昨日9月13日は「太陰暦」上では8月15日に当たり、俗にいう「中秋の名月」である。どうして「中秋」なのかと言えば「秋分」が近いからだ。「名月」は=「満月」であり、太陰暦上の15日は毎月「満月」となる。「太陰暦」のことを俗に「旧暦」と言ったりするので、何となく“非科学的な暦”のような印象を持たれている方が多いかもしれないが、そんなことはない。或る意味では大変に科学的というか、合理的な暦なのだ。なぜなら、太陰暦の日付通りに“自然界の出来事”が、毎年繰り返されるよう考えられている暦だからだ。例えば8月15日なら必ず「中秋の満月」になる。したがって昔は、農家の人たちにとって“なくてはならない暦”だった。現在でも、中華圏の国では「農暦」と呼んで重視している。「中秋の名月」とはいうものの、窓越しにぼんやり「月」を眺めるというだけでは何となく風情がない。そこで舞台上の「舞い」を見ながら夜月を眺めるというのはどうだろう。場所は山形県寒河江市の寒河江八幡宮境内だ。ここでは毎年、名月を愛でながら雅楽を愉しむという「観月雅楽会」が開かれているのだ。地元も中高生女子など8名が巫女姿で、豊穣や繁栄をもたらす「豊栄(とよさか)の舞」や、平和と安定をもたらす「浦安の舞」を見せてくれるのだ。こうして、美しい月夜と美しい巫女たちの舞いを見ることができ、同時に雅楽の美しい音色を聴くことが出来る。“日本の美”の特徴は“空間美”で、あえて余白を作る。美術でも踊りでも音楽でも必ず「余白」を残す。そこに“美”を生まれさせる。それを理解し、それを愉しむことが出来れば、あなたも立派な「平安時代の日本人(?)」になれるというものだ。正直に言えば、私は多分、眠くなる。あれ、本当に私は日本人だったのだろうか。
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