学校ではさまざまな知識や技術を教えてくれるが「生き方」については教えてくれない。「生き方」というものを本能的に学ぶのは、その人が育ってきた境遇が一番なのだ。10月18日の夕方、埼玉県和光市でマンション暮らしの老夫婦が刃物で殺傷された。襲ったのは、この老夫婦の近所に住む孫の中学生だった。87歳の夫は殺害され、自らも重傷を負った82歳の妻は、切りつけてきた孫に必死で懇願する。「死ぬ前にトイレだけは行かせて!」よくよく考えると奇妙な懇願なのだが、優しかったはずの孫は、その望みを許した。血を流しながらトイレに駆け込んだ妻は、娘のところに電話する。あいにく留守電になっていたので、すぐに来てくれるよう伝言した。結局、孫の少年はとどめを刺すこともなく、祖父母の家を飛び出し、そのまま行方不明となった。そして翌日、路上をうろついているところを職務質問から逮捕された。祖父母の殺傷事件で、通常、考えられるのは怨恨である。ところが、怨恨の場合はトイレになど行かせない。取り調べの中で、二人を殺傷した孫の少年は、学校に“許せない生徒”がいて殺そうと思った。殺人は家族に迷惑が掛かるので、迷惑が掛からないよう家族から殺した…旨の供述をしている。本気でそう言っているのか、単なる“作り話”なのか、判定は難しい。けれども、もし、これが本心で、実際にそう考えての犯行だったとすれば、あまりにも稚拙である。まず“許せない生徒”がいるからと言って、殺そうとすること自体が短絡的過ぎる。まあ“ぶん殴ってやる”程度なら解るのだが…。次に、家族に迷惑が掛かるから、家族から殺していく、という発想だ。おそらく彼は、その育ってきた境遇の中で、家族に迷惑をかけてはいけない、という“生き方”が培われたのだ。それ故に家族が居なくなれば迷惑は掛からない、という単純な発想。しかも、その家族には、一緒には暮らしていない祖父母も含まれていた。もしかすると、幼い子供を道ずれに“心中する”母親と同じような心境で殺害を試みたのか。このニュースの横に、カンボジアで2歳の時に父親を亡くし、5歳から家族のため漁に出て働き出したというセニョン(10歳)少女の記事が掲載されていた。私は昔、アンコールワットの遺跡観光をしたとき、ずっとついてきた幼い少女を思い出す。彼女は4~5歳だが“物売りの少女”であり、必死で絵葉書やメダルを売ろうとしていた。あの少女も、ガイドに追い払われながらも家族のため売り続けていたのだ。
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