近年、素朴な信仰心がお年寄りたちに多く芽生えてきているような気がする。日本は間違いなく“長寿国”となり、その平均寿命も徐々に伸ばされていく。当たり前の話だが、誰もが日々高齢に向かって生きている。年齢が行くごと、あちこち故障の個所が出て来て、それでも何んとか“生き延びていく”。つまり、いつ死んでもおかしくない人たちが街中にはあふれている。極端なことを言うと「死の境界線」が曖昧になってきつつある。お年寄りたちは漠然と“やがて来るべき日”を予感している。そこで“優しく迎え入れてもらえるかどうか”は、丁度、老人ホームに受け入れてもらえるかどうかと似たような感覚に変わりつつある。だから“死後”出逢うであろう身内の霊達を大切にしなければならない。そうでないと、自分だけ“弾かれてしまいそうな”気がするからである。そういう感覚から生れる信仰心。それが私のいう“素朴な信仰心”だ。昨日、兵庫県の町で、墓地の近くに住む吉川精一さん89歳は、同年齢の妻と一緒に“墓の清掃”に来ていた。なかなか自宅に戻らない両親を心配した息子さんが墓地に行き、自らの家系の墓にもたれかかるような形で死んでいる父親を発見した。同年齢の奥さんも一緒だったが、こちらの方は熱中症だけで命はとりとめた。家系の墓にもたれかかるような形で“死んでいく”…おそらく、暑さの中で意識がもうろうとなり、気が付いたら“あちらの世界”へと来ていたということなのだろう。もしかしたら、しばしば“墓の清掃”をしていることで、向こうの近親者たちに“そろそろ良いだろう”ということで呼ばれてしまったのかもしれない。身内の霊達を“大切にしなければ”という意識で“墓磨き”をしながら死んでいく…何んと素晴らしい「死の境界線」の渡り方ではないだろうか。長く生きるだけが“良いこと”かどうかには疑問もある。墓磨きをしながら、その墓に呼ばれて、もたれかかるように死んでいく、誰もが、そういう風に死ぬことが出来れば、何の苦しみもなく、心配もなく、あの世へと行ける。
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