昨日、第164回芥川賞・直木賞の贈呈式が行われた。もちろん、芥川賞は宇佐美りん氏、直木賞は西條奈加氏だが、芥川賞となった宇佐美りん著『推し、燃ゆ』は、既に42万部のベストセラーとなっているらしい。タレントなどではなく、純粋に小説家の作品で、受賞から一か月で42万部も売り上げたのは珍しい。現役大学生が書いた“生き辛い高校生”を作品とした小説で、それだけ“若い人たち”の共感を得られやすかったせいかもしれない。興味ある“題名”で、気にはなったが私は読んでいなかった。そこで、読後の感想が一覧となって出ているものがあったので、それを数十篇一つも残さず読んでみた。まず驚いたのは、今は「ネタばれ」となる感想は“伏字”になっているという事実だった。私には“伏字”になっている感想文と、そうではない感想文との違いがよく解からなかったが、とにかく各世代やその人の性質によって、かなり受け止め方が違う作品であることはよくわかった。ただ「アイドル推し」という“生き方”は、或る意味で“現代の特徴”でもあるから、そういう意味では“現代”を描いていることは間違いがない。実際の生活の中で、器用に“生きられない若者”が、新鮮な“地下アイドル”を「推す」ことで、自らの“生きている証”を求めようとすることは、仮に、それが“第三者”にどう映ろうと純粋で“燃える生き方”であるのは間違いがない。それは一時期、多かった“生きる目標を見失った若者”たちよりも、はるかに活き活きとしている。青春というのは“輝ける人”と“閉じこもる人”に分かれるのは、いつの世でも共通なのだ。その“閉じこもる人”の“燃ゆる”原動力になるなら「推し」は誇りある行為と言える。宇佐美りん氏は四柱推命式で見ると、けっして“きれいな命式”ではない。つまり“生き方が上手”な方ではない。十代で才能を開花させたが、いわゆる“文学的才能”を備えて生まれているわけではない。彼女が先天的に備えているのは、自分の中に在る“ヘタクソな生き方”を見つめる優しい眼だ。愛情にあふれた眼だ。したがって、単なる作家としてだけの目線ではなくて、自分自身の中にもある“生き辛さ”が作品の原動力になっている。多分それが活き活きとした作品を生み出している。そして、おそらくはこれからも“生き辛さ”を持った人たちの代弁者として、作品を描いていくのに違いない。
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