科学が進んだことでいろいろと明らかになってきた分野の一つに“古代文明”がある。今から100年ほど前に発掘されながら判然としていなかったミイラ二体に関して、大英博物館とオックスフォード大学の研究者は古代エジプトの統一王朝成立以前、その直前くらいの時期のミイラの上腕部や肩に入れ墨を発見したと発表した。おそらく“世界最古の入れ墨”ということになるだろう。特に男性ミイラの上腕部の入れ墨は判然としていて、“雄牛”と“羊”とが描かれている。その描写は大変にうまい。女性の方は何かの“印”を意図していると思われるがハッキリしない。これらは赤外線写真によって判明したもので、肉眼だと黒い斑点くらいにしか見えない。古代人が意図的に入れ墨をしていた形跡は世界各地にあり、日本人も中国の『魏志倭人伝』によれば海洋地域では“入れ墨”の風習があった、とされている。おそらく日本人の入れ墨は、その“属性”とか“階級”を表わしたものと考えられるが、私の知識はかなり前のものであるので、現在の見解は違っているかもしれない。ともかく、古代エジプトの統一王朝以前のミイラから極めて“見事な図像”としての“牛”や“羊”が出現したことは興味深い。古代エジプト人は、王朝成立以後も、この“牛”と“羊”とは「国家神」として扱っていた経緯があり「アピス・ラー」、及び「アメン・ラー」として“太陽神の一種”として重要視した。しかも、ここで重要なことは、同じ古代エジプトでも古王国王朝では「アピス」、新王国王朝では「アメン」に変わっていたことである。それはそのまま横道十二星座において「おうし座」から「おひつじ座」へと“春分点が移動”した時期に重なる。一般的なエジプト学では、古代エジプト人の天文学は幼稚だったとされ、十二星座の認識や区分はなかったとされるが、大いに疑問な点が各遺跡に存在する。もちろん、“牛”や“羊”の入れ墨は、そういう意識からではなく、あくまで“自分たちの共存者”としての意識からだったに違いない。或いは王朝成立後の古代エジプト人たちがそうであったように「神」として崇める意識があったからかもしれない。ともかく、古代の生活において欠かせない存在として“牛”や“羊”と一体化しながら、生きていたのは間違いがない。
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