映画監督だった大林宣彦氏が亡くなった。2016年8月に「肺がんステージ4」を告げられ、余命3カ月と診断された。それから3年8カ月も生き延びての82歳だから「大往生」と言える。昨年の11月には“特別功労賞”も受賞し、その悦びを「あと3000年、映画を作りたい」と表現した。私は彼の映画をそんなに見ていない。けれども「異人たちとの夏」だけは“強烈な印象”として残っている。確か映画館で封切り直後に見たのだが、その時に独りで観たのか、誰かと一緒に観たのか、どうして観ようと思ったのか、それらがどうしても思い出せない。私は一人で映画館に行くということが滅多にない。大人になってからは2~3回くらいしかない。ただ、この映画は独りで行ったような気もするのだが、そうだとすれば独りでも行くだけの“動機”が必要で、何が、私を映画館に向かわせたのかが思い出せない。この映画はストーリー的には、妻と離婚した男がふとしたことから既に亡くなっている父母と出逢い、そこに通い詰めていくうちに身体が変調を来たし、衰え弱っていく…という風な物語だ。ちょっと「耳なし芳一」の現代版のようなところもある。ただ映画そのものは恐怖仕立てではなくて、奇妙な“なつかしさ”と“やさしさ”と“ほのぼのとした情景”が引っ張っていく。だから、怖いはずなのに、引き摺り込まれるような情緒性があって、奇妙なリアリティがある。公開された年代を調べると、私は既に自分の母親や父親を亡くしたのちの映画で、そういう意味で観ようとしたのだろうか。どうも、違うような気がする。純粋に夏場の“恐怖映画”を期待したのか。それとも、私が好きだった秋吉久美子氏が出演していたから観たかったのか。或いは、もしかして私は思い出せないが、誰か女性から強く誘われ観に行ったものだったのか。もう一度観てみたい気もするが、今だと怖くて後ずさりする気持ちの方が強い。おかしなもので、私は若い頃“恐怖映画”を好んだ。確か20代半ばに江戸川乱歩原作の「陰獣」という映画を当時、一緒に小説を書いていた仲間の女性二人と観に行った。ところが刺激が強すぎたのか、片方の女性が途中からひきつったように泣き出して止まらなくなり、慌てふためいた記憶がある。やはり「異人たちとの夏」は独りだったような気がする。最近は、映画だけでなくTV番組でも“恐怖仕立て”のものはあまり見ない。昔はあれほど好んだ“心霊もの”なども、なぜか拒絶反応が強い。もしかすると「あの世」から引き摺り込まれてしまいそうで、死者が手招きをしてきそうで怖いのかもしれない。
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