歴史をひも解くと「そこは黙って通り過ぎようね」と言いたくなるような出来事に出くわす。このほどオランダのライデン大学図書館でドイツ人医師シーボルトに当てた“日本人妻おたき”からの書簡が見つかった。もちろん日本語で書かれたもので、3m以上に及ぶ“巻物形式の手紙”だ。鎖国時代に長崎の出島で医師として活躍したシーボルトだが、日本地図を国外に持ち出そうとしたとして“スパイ罪”に問われ、国外追放処分の身となった。その本国への帰国途上で、シーボルトは日本に残した妻へ手紙を送っていた。オランダで発見されたのは、そのシーボルトの手紙に対しての返信で、しっかりとした妻らしい内容の文面である。追放後の境遇を書き「涙が出ない日はない」と心情を綴っている。実は彼女がシーボルトと初めて逢ったのは17歳の時だとされている。元々遊女だという説が有力だが、その反証があるという説もあり、判然とはしていない。ただ手紙の内容を見る限り、少なくとも“現地妻”としての意識を、双方とも抱いていたことは確かなようだ。シーボルトの子である“おいね”についても書いていて、母親としての自覚も感じられる。けれども、やがて、おたきは再婚してしまう。もしかするとシーボルトは“もう来ない”と踏んだからかもしれない。ところが、32年後、シーボルトは再び日本にやって来た。そして、我が娘“おいね”とも会って医学を教えたのだが、彼女が雇っていた“若い娘”に手を出し身ごもらせている。娘としては複雑な胸中だったに違いない。それに“おいね”にはもう一つ屈辱があった。父親が日本を追放された後、シーボルトの高弟であった日本人から強姦されているのだ。今回の発見は、単純に言えば日本を追われた医師と、残された妻との“愛情あふれるやり取り”を印象付ける内容なのだが、そのどちらもが“当初の想い”は消えて、それぞれが“別の道”を歩み、その娘だけが“十字架を背負う”哀しい物語なのだ。
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