“本が売れない”と言われているこの時代、一週間で6万部も売り切った小説がある。それも何の賞も受賞していない新人作家の私小説だ。主婦作家であり、無名作家と言って良い。宣伝となる新聞広告などは、これから行われるらしいが、これまでは何もしていない。それなのに何故か評判となり、そのタイトルは一気に知れ渡った。確かに興味深いタイトルだ。そして何となく中身が気になるタイトルだ。よくよく見ないと、タイトルが見当たらない。目の悪い人には、ちょっと不親切な“表紙”だともいえる。加えて著者名も、よくわからない。表紙の装丁も、イラストも、判然とせず、すべてが中途半端な“実験本”のようですらある。昔、江戸川乱歩の小説に『屋根裏の散歩者』というのがあった。押入れの天井板が偶然持ち上がることを知り、そこから屋根裏に這い上がって動き回り、アパート住人たちの私生活を、天井板の節穴から“覗き見る”生活が始まる小説だ。真下住人の私生活を“覗き見る”というのは、実際には不可能な行為だが、われわれの誰もが持っている“好奇心”や“妄想”を掻き立てるのに十分な設定ではある。それに近いタイトルが『夫のちんぽが入らない』のようだ。なかなかストレートなタイトルだ。書き手は、特別“私小説”を意識して書いたわけでもなく、官能小説を意識して書いたわけでもなく、或る種、自分の“生きて来た様”をそのまま率直に、何の飾りもつけず正直に書いた結果として、こういうタイトルに至ったのだと思う。だから、意図的な“狙い”のようなものは、実際に作品を読んでみると全く感じない。ただ奇妙なリアリティがあって、乾いた哀しさのようなものが、ぐいぐい読者の胸に入り込んでくる。さらに、もう一つ“学級崩壊”のテーマが潜んでいて、その部分もまた“入らない”ことと同じくらい“切なく”哀しい。悩める性生活、悩める親子問題に突き当たっている全女性に読んでほしい作品だ。
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