人間というのは、ほんとうに苦しい時には“苦しいもの”を見ようとしない。ほんとうに貧しい時には“貧しいもの”を見ようとしない。そういう習性を持っている。つまり、ドラマ「北の国から」は日本が高度成長期の“ど真ん中”にあった80年代だったから、大ヒットしたのだった。ちょうどバブルに差し掛かる時期で、誰もが日本の“勢い”を信じていた。だから、精神性の強いドラマに、北海道の原野を逞しく切り開いて、貧しくても“家族の絆”を重視する生き方が、お茶の間に感銘を与えることが出来たのだ。似たような存在に「オウム真理教」もあって、同じ頃、急速に勢力を伸ばした。ヨガ仲間達との“精神共同体”を原野の中で作っていこうとした“新興宗教”に若い賛同者たちが集まった。それが「オウム真理教」の出発点だった。「北の国から」も「オウム真理教」も、日本のバブル期の歩みの中で“花開いた”異色の輝きだった。さて「北の国から」では何と言っても主演の田中邦衛氏の“名演技”が光った。その田中氏が3月24日に“老衰”で亡くなっていたことが昨日公表された。あの独特の“語り口”は、頑固一徹ともいうべき主人公の“生き方”に似合っていて、だから多くの人は共感を得た。茶の間に居ながら視る、北海道の“厳しい大自然”と闘う姿には、何とも言えない“癒す力”が存在したのだ。既に88歳になっていた田中邦衛氏は、その晩年は引きこもって、誰にも逢おうとはしなかったらしい。もしかすると、あまりにも強烈だった「北の国から」のイメージを、振り払いたくても、もはや振り払うことが出来ない自分との間で葛藤が生じていたのかもしれない。あの当時「オウム真理教」に、一時的にでも所属していた人たちはどうなのだろう。もはや教祖も亡くなって「呪縛」は解けたと思うが、どう気持ちを立て直し、通常社会へと戻ったのだろう。いや、もしかしたら、現在でも“何らかの呪縛”を引き摺って生きているのか。一般にバブルは“経済的な悲劇”ばかりが報道されるが、その陰で“ココロの疵”も引き摺っていたりするのだ。
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