奈良県明日香村にある「四神の館」で、今月19日から“重要文化財”に指定されて以降初めて石室内に描かれていた「玄武(げんぶ)」が一般公開されることになった。キトラ古墳壁画の一つである「玄武」は、七世紀末頃の作品とされている。キトラ古墳に描かれた天文図全体が古代中国で確立された“天文思想”の輸入品だが、陰陽五行思想に基づく“四神”と赤道上の“28星宿”が、石室内の主役たちである。それらの内から何故「玄武」だけを公開するのか明らかでないが、私の推測では「玄武」は十二支「亥・子・丑」北方三支の守護神なので、今年の“亥年(いのしし年)”にちなみ「玄武」のみ公開する…ということのような気がする。北側の「玄武」以外には、東側の「青龍(東方神)」南側の「朱雀(南方神)」西側の「白虎(西方神)」が、それぞれ存在する。いずれも天空神だが、同時に“神聖獣”でもある。それではどんな獣なのかといえば、蛇と亀との合体動物が“玄武”なのだ。だから、絵として描くにはもっとも難しい。そのせいか、キトラ古墳の「玄武」は、神聖獣としては今一つの出来で、崇めるほどのものに仕上がっていない。どうして蛇と亀との合体動物なのかといえば、その動きが観難く判別し難い部分が一番の理由だろう。もちろん“天空神”であるから“北の空”に観察できる。ただ鉛色に暗く輝いていて、常に低空飛行で、見えたり見えなかったりする。だから“蛇”と“亀”との合体動物なのだ。実は、その正体は今日でいうところの「水星」である。因みに「青龍」は木星であり「朱雀」は火星であり「白虎」は金星である。これらの惑星が、やがて五行の「木」「火」「金」「水」へと変わっていくのだ。どの方位にも属さない“神聖獣”は「麒麟」で、やがて「土星」→「土」として追加される。それらとは別に「陽光」に輝く太陽、そして夜に「月光(蔭光)」をもたらす月(太陰)、これらが出そろって、陰陽・五行思想は誕生する。今日では「占い」だけの陰陽・五行思想と捉えられがちだが、今から1300年ほど前の日本では、時の為政者たちが「宇宙(天空)」を読み解く神聖科学思想として《陰陽・五行思想》の宇宙観が大手を振って教えられていたのだ。
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