日本を「観光立国にしたい」或いは「縄文遺跡を世界に広く認めさせたい」という気持ちがわからないではない。けれども、今回ばかりはあまりにも“寄せ集め”の感がぬぐえない。国の文化審議会が30日、2021年のユネスコの世界文化遺産登録を目指して「北海道・北東北の縄文遺跡群」を推薦すると決定した。これによって、来年2月までに国としての正式な推薦書を作成し、2021年5月頃までにユネスコの調査機関が審議して最終決定を下す。それぞれの専門家たちが集まって決めたことであるから、推薦をすること自体が悪いとは言わない。けれども、今回の遺跡群はどう見ても“一つの文化遺産”という気が私にはしない。まず、遺跡の数が“17箇所”と異様に多いのだ。また、その地域も北海道から東北まで“広い範囲”に渡っていて、時代的にも本当に“一時代”と限定できるのかはなはだ疑問である。もちろん、縄文時代そのものが長期にわたっている。その文化圏も各地に分散している。「仕方がないではないか」という声が聴こえて来そうだ。けれども、例えばエジプトの「王家の谷」のような比較的広い地域に分散している場合でも、或いは年代的には長期に及んでいるとしても、完全に“まとまりのある遺跡群”であれば、誰も異をはさまない。17か所の遺跡には何の統一性もない。ただ、その時代の人々が営んでいた“生活の一端が推しはかれる”というに過ぎない。もし、それでも“一つの文化遺産”だというなら、世界中のあらゆるところに、そういう場所は存在しているのではないか。もちろん、実際にそういうところの何ヶ所もが「世界文化遺産」に認定されてきた。現在、ユネスコが認定する「世界文化遺産」は800箇所以上もある。「世界自然遺産」は200箇所以上もある。毎年、どんどん増えていく。そのこと自体がおかしい。“三ツ星レストラン”ではないのだ。本来「世界遺産」と呼べるほどのものであれば、そんなに生産できるはずがない。「自然遺産」など地球上に“数十か所”もあればよいところで、それ以上増やしていくのは価値が薄れるだけでしかない。「文化遺産」にしても、各地域で尊重していくべきではあるが、世界に認めさせるようなものなど“100選”くらいに留めておくべきだった。あれもこれもというのでは世界史における“本当の遺産”ともいうべきものが可哀想である。もちろん、私は縄文遺跡を否定しているわけではない。縄文土器から発せられる“生命力”や“情熱”は素晴らしいと思う。ただ「文化遺産」が“観光事業”や“金儲けの材料”として使われることに何かが違うと感じてならないのだ。
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