昨日、一人の作家が死去した。「井出久美子」という作家を知っている人は少ない。実は、この人、第15代将軍・徳川慶喜の孫なのである。3400坪の屋敷に生れている。けれども、当然のことながら、徳川慶喜氏が“ただの人”となったため、その孫として“お姫様”ではいられなかった。夫にも戦死されるなど波乱の人生を歩んだ。「世が世であれば…」という表現があるが、その片鱗は彼女の顔貌にもあり、目と眉との間「田宅」部分が異常に広い。これは本来なら“広大な土地相続の相”である。同時に“人徳のある相”で、過去の陰徳が予期せぬ引き立てや恩恵を導く人の相でもある。井出氏の場合は自らを「おてんば姫」と表現し、さまざまなエピソードを盛り込んだ自叙伝『徳川おてんば姫』を書き上げ、この6月に書籍化されたばかりである。まだ作家としては駆け出しの95歳だったのだ。まるで“15代将軍の孫としての人生”を書き上げたことで、自らの“使命が終わった”かのような死であった。どのような人物でも、その出生してくる“時代”や“家庭環境”を択ぶことは出来ない。その“時代”の歯車に押し流される形で、運命は展開していく。本人の性格も「運命」を作るが、それ以上に時代と環境が与える影響は大きい。私は幼い頃「雨漏りのする家」で育ったが、それがなければ“人間の運命”には関心を持たなかったような気がする。そして、私の家庭環境は、私が生まれる数年前までは“裕福な家庭”だったのだ。まるで“どん底の家庭”になるのを待って、産れたようなものなのである。母親が癌や心臓喘息を患い、入退院を繰り返し、父親は昼も夜も働き、実質一人ぼっちの中で、私は「空想の世界」に溺れていた。そう言えば母親も“大名の家系”であった。部屋の片隅にあった一冊の雑誌の“特集”が、私を占いへと結びつけたのだが、もし裕福な家庭に生まれ、母親も元気でいたなら、そして雑誌の“占い特集”がなかったなら、私は“どういう仕事”を選択し、どういう人生を歩んでいたのだろうか。
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