世の中には、その需要が「あってはならない」職業なのに、決して需要が「なくならない」職業というものがある。「偽造パスポート」を作る仕事だ。地下犯罪組織にとっては極めて重要な仕事の一つが「偽造パスポート」を作る仕事となる。奇妙なことに、世界各国からの需要がある。そこで優秀な技術者は、自らの優秀さを「見本」を作って相手に確認させるのだ。ただ、その見本となる人物は世界的に知られていなければならない。そこで登場したのが、映画「ロッキー」で世界的に知られているシルベスター・スタローン氏だった。彼の顔なら世界中が知っている。「偽造パスポート」の“顔”として、これほどうってつけの人物はいない。こうして誕生したのがスタローン氏の顔が見事に嵌め込まれた“本物に視えるパスポート”だった。これ一冊があれば、余計な説明などは不要となる。こうして、ブルガリアの犯罪組織にとって“偽造屋”は重要なポジションとなった。だから彼の自宅には「スタローン氏のパスポート」が何冊も机に仕舞われていた。けれども、なぜか“偽造屋”は1月29日にブルガリアの検察当局から家宅捜索を受けた。そして、世界を相手に商売してきたパスポート多数を押収されてしまった。世の中には、こんな優秀な技術を持っているなら、なぜ“悪い事”にそれを使うのだろう…と不思議に思うような技術者たちがいる。もちろん、その技術者たちだって、最初から“犯罪組織の一員”を目指して技術を身に着けたのではない。ほとんどの場合には、その優秀な技術を“金で買われて”組織に“身売り”した人たちなのだ。例えば借金で首の廻らない印刷会社の社長に「偽造パスポート」を作ってくれるなら、借金を肩代わりし、会社を存続させ、それなりの高額報酬も与える。もし、拒否した場合には「命の保証はない」と脅しをかける。すると、ほとんどの場合には組織のいうことを訊く。技術者というものは、自分の技術が“高く買われる”ことに悦びをいだく。もちろん「偽造パスポート」が重罪であることは知っていても、技術が買われ、借金が無くなり、会社が存続できるとなれば、そちらの方に加担してしまう。こうして、命が掛かった優秀な技術者が誕生する。ブルガリアの犯罪組織に加担した技術者の自宅からは、偽造パスポートだけでなく、精巧な作りの多数の「100ユーロ紙幣」も見つかったとのことである。
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