多くの人は“現在の状況”のなかで「自分の未来」を想像し、何かしら困った時には、その「未来」を想定したうえで現在における“最善策”を考える。そこまでは、ほとんどの人達は共通しているのだ。問題はここからで、その“最善策”を一つに絞り込んでしまう人達がいる、ということである。一つに絞り込んでしまうと、もうそれ以外の“答え”や“方法”というのは存在していなくて、ひたむきにそこへと突っ走ってしまうことになる。元々はエリート銀行マンだったという弥谷鷹仁被告(37歳)はそのような人物だったに違いない。2018年3月に千葉で妻・麻衣子さんを絞殺し、実母と共謀して実家の庭に死体を遺棄した罪に問われている公判が昨日行われた。彼によると、妻は出産後「強迫性障害」の病状が悪化し、極度の潔癖症となり、独自の家庭内ルールを作り、夫がそれに従わなかった時には、30分もの間食器棚を拭かせ続けるという罰を課した。そのため会社に遅刻してしまうことなどあったらしい。自分の家でありながら、トイレのドアさえ素手で触れることは出来なくなった。明らかに異常である。「離婚」について話し合おうとした時には「離婚するなら、この児を抱いて窓から飛び降りる」と、危うく実行しそうになった。それ以来、彼の頭から「離婚」の二文字は消えてしまった。極度の潔癖症に付き合わされ、その「罰」としての暴力を受けることが日常茶飯事となった。このままでは自分が職場に出て行っている間、幼い我が児に何を行うかわからない。我が児の命を守らなければ…妻への殺意は、そのような意図から生まれた。奇妙なことに、検察側も、弁護側も、妻殺意の動機では一致しているのだ。おそらく本人の中では、それ以外の“選択肢”が考えられなくなってしまったのだろう。もし、彼が、もっとほかの選択肢もあることに気付いていたなら、このような事件は起こらなかったに違いない。つまり、“子供の命を守ること”が優先なら、母親と子供とを引き離してしまうことだった。実母に預けるという“選択肢”もあっただろうし、“施設に預ける”という選択肢もあっただろう。死体遺棄のため、自分の家の「庭」を提供した実母が、どうしてもっと“離婚”や“子供の預かり”に動かなかったのか、その部分が何とも不可解である。もしかすると世間体というものを必要以上に考え、それらを望まなかった可能性もある。けれども、それが自分をも“死体遺棄”に加担する結果を招いてしまった。人間は誰でも、理不尽な中で窮地に立つことがある。そういう時に“一つの選択肢”しかないよう錯覚しないことである。自分で考えると、一つしかないよう思えても、実際には“二つ”“三つ”の選択肢が隠れていることが少なくない。ただ焦っている時や傷心している時というのは、頭の整理が十分でなく、思いつかないのだ。日本人には、考え方の根底に“極度の潔癖症”を抱いているケースが多い。「運命」というのは、潔癖症の人達が考えるほど“単純構造”ではないのだ。
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