私のような「面倒くさがり屋」は、多分、郵便局長から「金利の良い特別な貯金がある」と誘われても「面倒だから、そのままにしておいて…」というかもしれないが、もしもそれが親戚のおじさんなら「じゃ、おじさんの方でそっちに変えておいて」と言って任せきるかもしれない。まさか、それが“偽の金融商品”であるとは、普通、疑わないだろう。ましてや、そのおじさんが後から“本物の証書”まで手渡してくれたのであれば…。こうして、長崎の住吉郵便局長であった上田純一は、次々と自分の親戚とか知人とかを“特別な貯金”へと誘導した。通常、こういう“新たな金融商品”に入るのは、別に“不審”には思っていなくても、少しためらうことが多い。それは、新たな金融商品にお金を預けるほどの“余分なお金”を持ち合わせていないからだ。けれども、彼の場合には、新たなお金を預けてもらうのではなく、あくまでも「現在所有の預金」から「定期預金」の場合には解約して乗り換え「普通預金」の場合には一部を引き出して「それを預けてもらう」という方式だった。したがって、勧誘された方からしてみれば、“新たなお金”を出す必要がないのであれば、金利の高い方に「半分」とか「3分の1」とか回すのならかまわない、と考える。このご時世に「そんな高い金利の商品あったっけ⁉」と誰もが思うが、何しろ、相手は郵便局長なのだ。間違うはずがない。こうして、彼の親戚とか、知人とか、53名が次々と“新たなる預金”へと切り替えた。奇妙なことに、彼の“不正”は24年間も発覚しなかった。一番の理由は郵便局長から直接の“おすすめ商品”であったということ。他の職員は気付いていなかったということ。その商品には“本物の証書”が存在したということ。但し、その“本物の証書”は1993年に「廃止された商品」ではあったのだが…。つまり、本来なら既に“破棄されているはずの証書”を、彼は秘匿し続けていたのだ。したがって、手渡された証書を疑う者はなく、24年間も見過ごされてきたのだ。ただ、私は不思議で仕方がない。自分の親戚とか知人に対して“存在しない証書”を手渡していたなら、いつかは必ず、事件が発覚する。もしかすると彼は「自分の死後になってから、みんなは気付く」とでも思っていたのだろうか。さらに解からないのは、彼がそれらのお金で、家を4軒も所有したり、車を21台も所有したりしていることだ。それらの維持費だけでもバカにならないはずで、使用しないものに金をつぎ込む感覚がどうにも理解しがたい。本来であれば、普通に元郵便局長として“裕福な老後”を送れたに違いないのだが…。
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