朝、窓のカーテンを開くと、真っ白い“雪の世界”が広がっている。前日まで地方へ行っていた私は、秋晴れの中で終日を過ごした。そのせいで“冬が迫っている”ことを忘れかけていた。私が暮らすマンション12階の窓枠下には豊平川の流れと河川敷の運動場が広がっている。カーテンを開くと、そこに“真っ白い世界”が出現したのだ。北国の冬は、一瞬にしてやってくる。おそらく、こういう風な色の変化で“季節の変わり目”を一瞬で教えられたことは過去の記憶にない。いや、正確にいえば、あるにはあった。それは幼い頃、障子窓の隙間に白い雪が入り込んで僅かに積もっているのを見つけた時、あの時にも「冬が来た!」と幼心に思った。冬は嫌いだった。寒くて、風が強くて、路が滑るからだ。私が育ったのは室蘭で、冬場は強風が吹く。“吹き飛ばされる”ほどの強風が吹く。雪はあまり積もらない。強風のせいで飛ばされてしまうからだ。だから、いつも冬は粉雪が舞っている。言葉で表現すると何となく美しいが、実際には、地べたにしがみつくような意識で立っていないと粉雪に取り巻かれて身体が宙に浮く。だから冬は大嫌いだった。みんな顔を真っ赤にしながら歩いていた。滑りそうな道を、滑りそうな靴を履いて、滑りそうな格好で歩いた。私が子供時代から地元を愛せなかったのは、工場の街で空気が汚れていたせいでもあるが、何よりも冬の強風と凍った道が嫌いだったからだ。札幌に移り住んで初めての冬、私は“風がない”ことに驚いていた。“雪が白い”ことに驚いていた。“道が滑らない”ことに驚いていた。けれども、あの“強風と格闘しながら歩く”冬の道を懐かしく思い出すこともあった。あそこで少年時代を過ごしたことで“耐える精神”が培われたし、“挫けない意志”が養われた。人は寒さの中で「愛」を知る。暑さでは知りえない「愛」を知る。真っ赤に燃えるストーブに集まった顔に裏切りはなく、顔に深く刻まれた年輪のような皺には誠実さがこびりついていた。
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