「オレらしく引き際はすっきりしたい」と試合後“引退表明”をひっそり行った。格闘技界の野獣・藤田和之である。「RIZIN」の無差別級トーナメント開幕戦で、巨漢・バルト(元大関・把瑠都)に判定で敗れた。2000年代に日本の格闘技界をリードした藤田氏も45歳。以前のように動けなくなっていた。格闘技界では“一度引退したはずなのに”復活する選手が多い。それを嫌っての冒頭の言葉なのだ。「庭の草むしりでもする」と野獣は言ったが、まだ、そういう年齢ではない。この大会では、かつてのレスリング女子世界王者・山本美憂選手(42歳)も息子の前で敗れた。こちらの方は「敗れたことで火が付いた」と再チャレンジを誓った。一時期、日本の格闘技界をリードした藤田和之氏だが一般的な知名度はそれほど高くない。あまり派手なパフォーマンスをしなかったこと、ベルト所有期間が短かったこと、ずんぐりむっくりの体形で“格闘技界のアイドル”とはなりえなかったことも大きい。けれども正に野獣として、相手をねじ伏せていく圧倒的迫力は見応えがあった。確かに“衰えた藤田”は見たくない。もし、このまま本当にリングを去ってくれたなら“伝説の人”になれるだろう。私は、死ぬ間際にミケランジェロが制作した「ロンダニーニのピエタ」がたまらなく好きだ。それは、ルネッサンスの巨人・ミケランジェロが老齢となって青年期の“迫力ある彫刻作品”を制作できなくなって、それでも“必死に作り続けた最後の作品”である。本当に誰もが「あのミケランジェロが作ったの?」と目を疑うような作品なのだが、そこには人間として“必死に神と格闘する”ミケランジェロの生の姿があって、どの作品よりも崇高に輝いている。
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