昨年6月、香港では「香港国家安全維持法」が制定された。その結果、反発する多くの人達が香港警察によって逮捕されていったが、その中に民主活動家として早くから知られる周庭氏(24歳)も含まれていた。香港市民に影響力の強い彼女を逮捕することで、事態を鎮静化させ、力による“抑え込み”を計ったものと思われる。その意図はある程度成功し、あれだけ“暴徒化”していた香港の街中から、しだいにデモや集会が遠のいていった。それを見届けたように、香港警察は7か月間収監していた周庭氏を6月12日釈放に踏み切った。多くの報道陣が彼女を取り巻いたが、周庭氏は無言のまま用意された車へと乗り込んでいった。そして「疲れた」という表現と共に“真っ黒い画像”だけを投稿した。その後、彼女からの動静を伝える報道はない。私は、彼女は“新たな道”を歩み始めると思う。収監している間、香港警察は、というよりも正しくは「中国」は、彼女に対して“どちらを選択するか”迫ったに違いないのだ。つまり、このまま「正義」を貫こうとして何度も獄中に繋がれるか、それとも「普通の市民としての幸福」を求めるか、二者択一すべきであると迫ったのだ。十代半ばから、“自由な香港”を勝ち取ろうと努力してきた彼女だが、そうすればするほど、香港は“本土化”していった。もはや“昔の香港”“自由だった香港”を呼び戻すことは不可能に思えた。あれだけ「みんなのために…」と願って闘った過去も、色あせて見えてきた。彼女の中に「普通の…幸福」を求める気持ちが芽生えたとして、誰がそれを責められるだろう。私は、ここで遠藤周作の実話小説『沈黙』に出てくる宣教師の一人を想い出す。名前は忘れたが、彼は“キリスト教”を広めるため、長崎に上陸した何人かの宣教師の一人だ。けれども、捕まって激しい“拷問”を受け続ける。そして条件を提示される。「もしも仏教徒に改宗するなら、その後の暮らしは幕府が保証する」やがて、彼は堕ちてしまう。そして実際に仏教徒となり、妻をめとり、安楽に暮らして日本で亡くなった……
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