ときどき人は自分以外のことで“運命の十字架”を背負わなければならないことがある。1998年7月に起きた「和歌山カレー事件」で“犯人”と疑われ逮捕された林眞須美の長女は、両親が逮捕された時から「犯人(⁉)の娘」という“重い十字架”を背負わなければならなくなった。両親とも逮捕されたことで、その子供たち3人は児童養護施設へと預けられた。しっかり者の長女は、その日から“下のふたり”に対し“母親代わり”の役を演じなければならなかった。逮捕される直前、母親と長女とは、大切な会話を交わしている。マスコミが騒ぐので、長女自身も「もしかしたら…」という疑いをほんの少し抱いていたのだ。母親は「逮捕されるかもわからん」と長女に告げた。「ほんまだったん⁉」本当に犯人なのか、と母に問うたのだ。「お前はバカか、やっとるわけないやろ、すぐ帰ってくる」それが、母親との“最後の会話”になった。その日から、母親は帰らず、自分達も施設暮らしとなった。永い月日が経って、母親は「死刑囚」となり、そういう事情を知った上で、それでも良い、という夫と巡り合い結婚をした。そうして子供も生まれて、見知らぬ人が見れば「幸せそうな家族」にも見えた。けれども「犯人の娘」というレッテルは、常についてまわった。“似たような事件”が起こるたび「和歌山カレー事件」が引き合いに出された。その日「幸せそうだった家族」から、一人が抜け落ちた。また母親の「再審請求」が出されて受理されたが、もうどうでもよかった。やっぱり、幸せになどなれない。「幸せそうだった…」だけなのだ。4歳の“我が児”を道ずれにして「関空橋」から飛び降りた。これで、すべてが終わる。「ごめんね」と我が子に言った。その日6月9日のニュースには「関空橋転落死」として、短く母娘が“転落死”しているのが見つかった、とだけ伝えていた。
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誰でも、自分の未来が“良いもの”であって欲しいと思う。それは万人に共通している。ただ、それが“万人にやって来るか”というと、それは違っていて、やって来る人もいれば、やって来ない人も 続きを読む