あなたは「ピカソの絵画」を贈られたならどうするだろう。自分の部屋に飾るだろうか。それとも“売り”に出してしまうだろうか。それとも、車庫の中に“眠らせて”置くだろうか。彼ピエール・ルゲネクは自宅車庫の中に眠らせておいた。それが彼の主張だった。それも40年間という長期にわたってである。もし、彼の言うごとく、本当にそれが贈られたものであるのなら、自宅車庫の中であるから、誰も罪には問えない。けれども十年間にも及んだ裁判の結果は“盗品”とみなされた。なぜ、盗品とみなされたのか。一つには“贈られたモノ”にしては点数が多過ぎるのだ。何んとその数271点。ピカソの作品ばかり、そんなに数多くの作品を“車庫に眠らせる”ような人物に贈るだろうか。どう考えてもおかしい。しかも、彼は美術マニアではなく、ただの電気工なのだ。フランスの裁判所は、それでも十年間もの間、法廷で争わせたのだ。何んと素晴らしい裁判所であることか。結局、判決は4年前と変わらず、執行猶予付きの禁固2年だった。それなら双方とも、そんなに意地を張らなくても…と私などは思うのだが。もちろん、本人にとっては“大きな違い”なのに違いない。実は、この裁判、もしかしたら被告の言う通り“盗品”などではなく“贈られたモノ”であった可能性もある。なぜかというと、こんなに夫婦2人で盗めるはずがないのだ。27点ではない。271点だ。しかも“巨匠ピカソの作品”である。1点でも貴重だというのに、どの美術館でも厳重な監視下にあるというのに、夫婦2人だけで盗めるはずがない。もちろん、検察側も、それは承知している。彼らが直接盗んだと考えてはいないのだ。富裕な美術商に“利用された”と考えているのだ。そうして“盗み”の片棒を担がされた、と見ているのだ。確かに、美術商が介在しているのは間違いがない。けれども、もしかしたら本当に彼らは“盗品”とは知らず、絵画を大量に貰ったが、興味がないので車庫に入れたままにしておいた、ということもあり得ないことではない。なぜかというと、もし彼らが“ピカソ作品”の価値を知っていたなら、少なくとも何点かは“金に換えていた”と思われるからだ。40年間ずっと車庫に保管しておいても一銭にもならない。大体、絵画を盗むのなら、それが“高額で売りたい”からか、その“作品が死ぬほど好き”だからか、二つに一つで、それ以外のケースは考えられない。車庫にぶん投げておくために盗むということ自体、ありえないのだ。そうだとすれば、理由はよく解からないが、実際に美術商から「大切にしてほしい」と贈られ、けれども絵に興味がないから、車庫に入れておいた…ということもあり得ないことではない。それはともかく、40年間の“眠り”から目覚めた271点の作品は、その“価値が解かる人達”の元へと旅立っていく。
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