どんな両親から生まれたか、どんな環境のもとに生まれ育ったか、時々、人はそれを考える。一冊の興味深い自伝が出版されていた。死刑囚・麻原彰晃こと松本智津夫の三女として産まれた松本麗華さんの回想記『止まった時計』(講談社刊)だ。彼女は5歳でオウム真理教の施設へと移り、そこで幼少期を過ごした。したがって小学校にも中学校にも通っていない。死刑囚である教祖や幹部たちと過ごしたが、学校に通わせてもらえなかったので、自分で学習するしかなかった。教団内からは「アーチャリー」と呼ばれ、特別な存在として崇められることもあったが、本人としては“教団とは無関係”という意識で生きて来た。ちゃんと学校を出たかった。そこで“中学卒業認定試験”というものを受け合格、一校だけ受け入れてくれた高校へと進学する。本人自身は、事件後の「アレフ」とは関りを持たなかった。高校在学中に“心理学を学びたい”という意識が芽生え、文教大学に合格し4年間で卒業も出来た。その間、自殺(未遂)したこともあれば、死刑囚である父親と面会したこともある。父親は精神に異常をきたしていた。それでも「父が好きだ」と言い切る。何のためらいもない。この覚悟は何だろう。多くの人間を犠牲にした人物にも“血を分けた子”が居て、その子は“運命の十字架”を背負いながら生きていかなければならない。彼女は、それを恨んでいないように見える。今も正規の仕事を得るのは難しいのか、アルバイトなどをしているようだが、それでも父親に愛情を抱いている。世間は、重すぎる十字架を決して許してはくれない。それを十分に意識・理解し、それでも“人前に顔を晒して”生きていこうとする彼女を誰が批判できるのか。一瞬にして情報が駆け巡る今日、犯罪者の家族は、一瞬にして“すべてを失う”のだ。ただ“家族の絆”だけは、良くも悪くも続いていき、その後の人生に影を落とす。
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