日本の女子陸上の名指導者として知られた小出義雄氏が亡くなった。一般的には“シドニー五輪・金”の高橋尚子氏の監督として知られる。けれども小出氏は、高橋尚子選手だけを育てたわけではない。有森裕子選手、千葉真子選手、五十嵐美紀選手、鈴木博美選手などさまざまな選手の素質を開花させたことで知られる。小出氏に指導を受け始めた時、いずれの選手もまったくの無名であり、さしたる記録も、履歴も存在していなかった。それらを“世界的な女子陸上のホープ”へと育てたのだ。彼女達はいずれも、小出氏の元で練習しなければ大きく飛躍することはなかった。スポーツ界には元々“天才的素質”を備えた少年や少女が時々出現する。そういう人達は誰に指導を受けようと、どこに居ようと必ず注目される。必ず“一流のアスリート”に成長していく。けれども、小出氏に指導を受けて“世界的ランナー”となった人たちは、そういうタイプの天才たちではない。基本的には“走る”という競技は誰でもできる。それも、長距離を走る、という競技は“早い・遅い”を別にすれば誰でもできる。短距離は素質が必要だ。けれども長距離は“我慢強さ”さえ持っていれば、運動神経など良くなくても出来る競技なのだ。だから素質よりも、肉体的な基礎体力作りと、“自分に負けない”精神面が重要なのだ。そういう競技だから、指導者によって“飛躍的に伸びる選手”というのが出てくる。けれども、誰もが“飛躍的に伸びる”わけではない。やはり、先天的な運動能力とは別な部分で「輝く素質」があるかどうかを見抜く眼は必要なのだ。小出義雄氏には“それ”があった。だから何人もの“女子陸上界のホープ”を育て上げることが出来たのだ。彼の指導法の特徴は、その人に眠っている“良い部分”や“優れている部分”を引き出していくやり方で、そのためには父親とか恋人のように寄り添っての“言葉かけ”を怠らない。観方によっては“うざい指導法”なのだ。けれども、それは丁度、幼い子供が、父親とか母親の“言葉かけ”によって、或いは“励まし”によって、いろいろなことが出来るように変わっていく成長期に似ている。愛情のある“言葉かけ”は子供の成長にとても重要だ。それとまったく同様な方法で「金メダル」さえも狙えるのだ。実際、能力が開花した後であったが、高橋尚子選手は小出監督を離れた後、急速にその力が衰えていった。それは彼女が「天才」ではなくて、良い意味での「小出監督のおもちゃ」だった明らかな証明である。
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