「死後世界」というものがあるかないかは、実際には死んでみなければ解からない。けれども「死後世界」を信じていた人々は、奇妙なことに、何千年もの時を経て“生前の姿”として蘇ることになった。そういう意味では“死後世界の蘇えり”という考えは、間違ってはいなかった(?)のだ。今年、エジプトでは遺跡現場でいろいろな発見があった。中でも最大級の発見が、古都ルクソールの南側アルアサシーフという墓地から発掘された第22王朝の高位神官一族30基の棺である。これほどの数の未開封の棺が一度に発見されたことはない。しかも、今回の棺はいずれも保存状態が大変に良い。とても3000年間眠りについていたとは思えないくらい埋葬当時のままなのだ。もしエジプトが雨の降らない乾燥地帯でなければ、地中の棺は腐敗してしまっているだろう。古代エジプトの棺の多くが“埋葬された姿”を留められたのは、この“乾燥の地”ということが大きい。極端な話、ミイラにしなくても、埋葬されたエジプトの死者は“ミイラのように”枯れていく。そういう地域で、早くから“ミイラ製造の技術”が発展した。なぜ発展したのかというと「死後世界」を信じていたからだ。“死後にある来世”を信じたのだ。けれども、そこに行くためには“二つのモノ”が必須なのだ。その一つが「ミイラ」であり、もう一つが「カー神像」と呼ばれる等身大の彫像だ。この「カー神像」とは何かといえば“死後世界の生命力”であり、“死後世界を支える力”である。したがって、この彫像は等身大なのだが、その頭部には“支える力=両腕の形”が載せられている。ミイラの方には「口開きの儀式」という呪術が施され、冥界に行った時に“言葉が発せられる”ようになっている。奇妙なことに、われわれは古代エジプトの王墓から多数のミイラを発掘し、それらを修復して保存し、カイロ博物館に展示している。ミイラの姿で3000年~4000年を経た「現代」という“冥界”で生前の姿を保っている。私自身、ラムセス二世やハトシェプスト女王のミイラを拝見した。それらの王達の時代に何が行われたのかも、概略ながら知っている。つまり王達は“この世”を去ったが「現代」という冥界の中で、生前のような姿かたちを表わし、その当時のレリーフやパピルスを通じて当時の歴史を話している。彼らは現代でも“神王”であり“女王”なのだ。考えてみれば「死後世界」を信じた“王朝の人々”は、洋の東西を問わず、死後になっても“王宮などの遺跡”を遺し、“巨大墓”“ミイラ”“棺”を遺し、その当時の歴史を遺している。それによって「後世」という“死後に来る世の中”で生き続けていくのだ。
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