あなたがアナウンサーだったなら、仕事として、それが出来るであろうか。結婚して1年余28歳の女性アナウンサーは、自らの番組内で“それ”をやり切ったのだった。彼女は、その日も、いつものように土曜日の午前10時からのニュース番組「IBC24」の報道フロアで事件を読み上げていた。その途中、事故の速報として現場からの電話中継が入った。現場にいた記者はインドのマハサムンド郡で、5人が乗った乗用車に背後から大型トラックが突っ込み、5人のうち3人が死亡したことを伝えた。その車の車種や色は伝えたが、死亡した人物の姓名は語らなかった。その後もニュース事件の報道は10分ほど続き、番組は終了、カメラがOffに切り替わった。その瞬間、女性アナウンサーのスプリート・カウル氏は泣き崩れた。彼女には速報の事故死亡者の中に“夫が含まれていること”を直感していたからだ。その日、その地方に夫が5人一緒に車で行くことは事前に知っていた。実は報道フロアの責任者は、犠牲者の名をあえて伏せたのだが、それでも妻は本能的にそれを悟ったのだ。けれども、最後まで彼女は仕事をやりぬいた。日本の女子アナウンサーで、同じことをやってのけられる女性が果たしているだろうか。報道の現場に携わるということは、実はそういうことであるのだ。かつて東日本大震災の時、自分の姉が亡くなっていたのに、リポーターとしての仕事をつづけていた男性がおられたが、自分の職務に対する“責任感の強さ”をまざまざと感じさせた。人は、時として“自らの命”を、仕事に対して差し出さなければならないようなときがある。けれども“命”まで差し出すことが、本当に正しいことなのかどうかは、誰にもわからない。
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