人は自分自身で“どの時代”に生れるか、“どの国”に生れるか、“どの両親”の元に生れるか、“どちらの性”に生れるか、そして“どの名前”を与えられるか、誰も自分で決められないし否めない。その結果として、さまざまな「運命」に翻弄されることになる。最近では、方法によっては“国籍を変える”ことも出来るし、“性別”を変えることも出来る。もちろん名前だって変えることが出来る。彼は自分の本名が嫌いだった。当然である。彼は「赤池王子様」という本名を授かっていたのだ。これが「王子」で止めておいたなら、まだ救われただろう。けれども彼は最初から「王子様」だった。これでは救いようがない。何かの席に招待された時など「王子様様」と記載される。学校でも会社でも、必ず「王子様」と呼ばれる。本名なのだから仕方がないといってしまえばそれまでだが、必ず、その後で“わらい”が漏れる。気分の良いものではない。そのことで、彼はずっと悩んできた。けれども彼は家庭裁判所に申し出ることで、名前を換えられることを知った。家庭裁判所で変えることが出来るのは、社会生活に支障をきたす、と判断される名前の場合だ。もちろん「王子様」の場合には“そういう名前”に該当する。だから申請は通り、彼自身が希望する“新しい姓名”「赤池肇(はじめ)」に変えることが許された。ちなみに、よく姓名判断で“画数の良くない名前”を換えたがる人がいるが、これは余程の“証拠品”がないと認められない。もちろん、この場合には“画数”の良し悪しではない。実際に名前を変えて“社会生活を送って来た”という証拠品である。早い話が昔からの宛名書きなど手紙類や印刷物が存在する場合だ。所謂「通用名」と呼ばれるもので、その名前の方が“世間的な通り”が良く、実際に永年、それを使用生活してきている、と認められれば変更を許可する可能性が強い。ところで「王子様」の場合、その名付けは母親の独断で行われたらしい。きっと自分の息子が皆から「王子様」と呼ばれることが夢だったに違いない。確かに5~6歳くらいまでなら容貌にもよるが「王子様」的な衣裳を着せて愉しむことも出来るかもしれない。けれども、当たり前の話だが、子供はいつまでも子供で居られない。60代や70代になった時「王子様、年金を受け取りに来てください」とか「王子様、診察室にお入りください」とか言われた時の“気恥ずかしさ”を考えると、王妃気取りだった母親を嘆かわしく思うに違いない。
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