世の中には「わかりやすい人」と「わかりにくい人」がいる。この人の場合は、わかりにくい。まず「隔離性同一性障害」という病気をご存じだろうか。俗にいう「多重人格」だ。複数の人格が“本人”の中に存在していて、自分の意志とは無関係に時折出現してくる。その出現時には、本人の身体は相手に“奪われている”ので、自分自身としての記憶はない。言ってみれば「霊媒体質」で、心霊世界では昔から存在した。ただ、それが数分とか数十分とかだと、それほど問題はないが、数時間ということになって来ると、いろいろと生活に支障が生じる。「声優のアイコ」で一躍有名になった犯罪者が、それだ。この人、元々が「性同一性障害」で、この病気と「解離性同一性障害」とは“異なる病気”だが、この人の場合はその両方を患っているらしい。まず「性同一性障害」は、“心と体が異なって生まれて来る病気”であり、この人の場合「男」なのに「女」の身体として生れてきた。したがって、この人は大人になって乳房を切断し、日頃は男装し、男性名で生きて来た。ここまでは理解できる。やがて「隔離性同一性障害」としての“別人格”が出現し、しかも、この別人格は“女性”だった。そこで、当然というべきなのか、この別人格女性が支配している間は“女装”し、“女性”として振舞うのだそうだ。そうして、男性達を手玉にかけ、こん睡させて金品を奪うという犯行を重ねた。その時に使う名が「声優のアイコ」だった。ところが何を間違ったか、この「声優のアイコ」は金品を奪ったのとは多分ぜんぜん別個の相手と性行為に及んでいた。別人格が女装しても疑われなかったように一応“可愛い女性”のままベッドに入ることも多分可能だったのだ。その結果、本人も気づかぬうちに、妊娠していた。こうして、神いっき被告は刑務所内で出産する。「男」なのに“母親”になってしまったのだ。この人は、最初から一貫して“犯行時の記憶がない”と主張している。もっとも、その主張は認められず、懲役十年の判決となった。この人は、自分の犯行を認めていないわけではない。犯行は認め、罪も認めて、ただ自分は多重人格としての病気だから“正規の治療を受けたい”と望んでいるだけだ。この“母親”のどこをどうすれば、“本来の姿”に戻せるのか、また“本来の姿”というのがどっちなのか、もしかすると、現代医学の出番ではなく、宗教呪術とかの世界なのかもしれない。
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