或る雑誌に、12歳から芸能活動を始め、17歳で歌手になってTV番組エンディングでも使われ、その後大学に入って大学院まで出て外資系製薬会社で働き、33歳から別な大学で法律を学び、5年後に司法試験を突破し、3年前から弁護士事務所を開業し、時々ステージに立って歌も歌う。元アイドル・平松まゆき氏の記事が出ていた。弁護士になろうと決意したのが33歳、すぐに会社を辞め一日16時間の猛勉強を始めたという。彼女の場合、アイドル歌手としても、まったく目が出なかったわけではない。けれども、純粋にもっと勉強がしたいと大学に進んだ。歌手を継続しながら学ぶことも出来たかもしれないが、それを択ばなかった。芸能界を完全に引退したのだ。そして大学院に進んで外資系企業に入り、そのままいれば出世した可能性もありながら、生きがいを感じられずすっぱり辞めている。そしてぜんぜん別個な大学で新入生として法科を学んだ。人は“一度手にした座席”をなかなか手放せない。それに手放して、その後が上手くいくという保証もない。けれども、昔から「二兎を追う者は一兎をも得ず」というではないか。本当に何かを得ようと思うのであれば、何かは犠牲にしなければならないことが多い。彼女の場合、最初「歌」を犠牲にして「勉学」を得た。そして外資系企業で普通に働いた。けれども何かしら“満たされないもの”が残った。そういう中で報道ドキュメンタリーで弁護士の必死な活動を見た。ぬるま湯につかっている自分が許せなくなった。そこで会社を辞め、振出しに戻って法科に入学した。一日16時間の勉強が始まる。それでも、すぐに合格はしなかった。司法試験の壁は生易しくなかったのだ。もし彼女に“アイドル歌手”としての“過去を懐かしむ”部分があったなら、途中で挫折していたことだろう。昔、マライア・キャリーに憧れた少女は、完全に“過去の自分”を葬っていた。その結果、5年の年月を経て見事合格し、故郷に弁護士事務所を開設出来たのだ。そして、いつの間にかステージで「歌」まで歌うようになっていた。ちょっと意地悪な神様は、時々人間を試したりする。すべてを奪ったりする。そうして、見守りながら、ギリギリのところで、そっと手を差し伸べる。
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