「内柴正人」という人物を憶えているだろうか。そう“アテネ五輪”と“北京五輪”の両大会で柔道で“金メダル”に輝いた人物である。その後、彼は地元の熊本で九州看護福祉大で女子柔道のコーチとなって指導していた。ところが、2011年の合宿中に、教え子であった十代の女子に対して多量の酒を飲ませて、性的暴行を行ったとして告発され、“準強姦罪”として逮捕された。その後、裁判で最高裁まで争ったが、判定は覆らず5年の実刑が言い渡された。さらに“紫綬褒章”などは取り消され、日本柔道界からは“永久追放”が下された。まさに、転落の一途をたどったのだ。その彼に、手を差し伸べようとする者が受刑中から表れた。神奈川で“柔術道場”を主宰していた山田重孝氏である。それ以前は面識のなかった彼の勧めで、刑期を終えた後、内柴正人氏は山田氏の柔術門下となった。そうして練習している内に、たまたまその道場に通っていたキルギス出身の元柔道家と知り合う。そして、キルギスの柔道男子チームの総監督になってくれないかという話が一気に進む。そこで山田重孝氏も含め、試みにキルギスへと渡って柔道の練習に参加してみた。その中で“やっぱり柔道”という思いが、内柴氏を貫いた。教え方も上手いと山田氏の方も太鼓判だ。こうして、中央アジア・キルギスの柔道男子チームの総監督の話が正式に決まった。内柴氏は事件を起こしたことで、新婚間もなかった妻とも離婚した。けれども、出所後、同じ九州看護福祉大で女子柔道の“教え子”だった女性と再婚した。もちろん、事件とは無関係の女子だ。彼女は、事件の後も、個人的には内柴氏から学びたいと熱望していた女性なのだ。こうして、全てを失った内柴氏だったが、運命は彼を“柔道の世界”から見捨てなかった。何かで、その“世界”から追われながらも、結局、戻って来て大成するケースは稀ではない。「運命」の歯車は、表舞台から裏舞台へ、そうして再び表舞台へといざなっていく。
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