東京・渋谷の美術オークションで2日、国内としては最高額の10億円でパブロ・ピカソ1939年作「泣く女」が落札された。私はまず“10億円”という価格が、我が国で開催されたオークションとしては“最高額”であることに驚いた。日本国内では“高い絵画”は売れないということだ。もっとも、それをオークションに出したのは日本在住の個人だというから、どこか外国から購入してきたのに違いない。もしかすると、その所有者が亡くなって相続した近親者の趣味とは合わなかったのかもしれない。こういう名画とか名品とかは、どんなに芸術的価値があろうと、その人の趣味に合わなければ“ガラクタ”に属する。私は、正直なところ40代後半くらいまで、抽象画を“良い”と思ったことがなかった。というか、あんな作品の“どこが良いのだろう”と、いつも思っていた。ところが、食べ物の好みが年齢によって微妙に変化してくるように、芸術作品に対しても多少趣味が変わってきた。抽象画を“好い”と思うように変わったのだ。特に、じっくりと眺める、部屋の中に同居させる作品としては“抽象画”の方が、味わい深いものがあるな…と思うように変わった。“具象画”というのは、長時間一緒に居ると見飽きてしまうのだ。そこへいくと、抽象画はピカソに限らず、徐々に“部屋に馴染んでいく”というか、部屋の一部と化していく。そして、そこに或る種の“異空間”を現出する。だから、その部屋に馴染むような作品であればの話だが、とても新鮮で暖かな雰囲気を作り出す。元々ピカソは、古代エジプトの絵画やレリーフから“異次元描写”を確立した。古代エジプトの絵画やレリーフには決まりがあった。正面から見て特徴を出せるもの、真横から見て特徴を出せるもの、真上から見て特徴を出せるもの、それらは“一つの作品中”に同時に描く。したがって、顔は横向き、身体は真正面向き、両脚は横向きという“奇妙なプロポーションの構図”が生まれた。そこに、ピカソは霊感を得たのだ。そうだ、自分の絵にも“全部入れて”描いて行こう。時間の壁も取っ払って描くので、動きが重なるような描写となる。だから、パッと見はおかしいのに、部屋に飾るといつの間にか“同化”していくのだ。さて、ピカソを購入したのは日本人だと思うが、どのような部屋に住んでおられるのだろうか。馴染まない部屋に飾られた「泣く女」は、やがて逃げ出すのに違いない。
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