最近、友人から香港で刊行された観相学書を2冊送っていただいた。
その1冊は、写真実例を豊富に盛り込んだ人相学書で、顔面だけでなく、背中やお尻に対してまでも実例写真で解説してある。もう1冊の方は、全編図解中心で、個々の性格や運命的な特徴を漫画的にややデフォルメした形で顔貌が描かれてある。中国系の書物は、当然のことながら漢文であるが、写真や図解があるとおおよその意味はつかめるので、大体のところは理解できる。ただ、判読に時間が掛かるので、きちんと読み切ることはなかなか出来ない。
中国の観相学書といえば、昨年、日本で『神相全編入門』という書名の本が発刊された。著者は「歌丸光四郎と神相全編研究会」という方達で、栗原晶子女史ら4名であるらしい。
元々『神相全編』という書物は、人相学の古典として知られている書物で、中国宋代に陳希夷という名の仙人がまとめたものといわれている。名著ではあるが、1000年以上も前の書物で現代にそのまま当てはめようとすること自体に無理がある。
ところが『神相全編入門』の著者らは、どうもこの初歩的な事実が解っていないらしい。現代文に改めてはあるが、中身は古色蒼然としたままで、なんらの変更も手直しもない。著者らは「はじめに」で、あえて原文に忠実であろうとした、身近に活用できるよう心がけたというが、こんなもので初心者が活用などできるわけがない。大体、私に言わせると、研究会のメンバー自体が神相全編の内容を理解していない。理解できていない者がまとめているのだから、初心者に理解できるように手直しできるわけもない。
少し厳しい言い方になるが、解っていないなら現代訳など出すな、と言いたい。日本の現代の観相家で、神相全編を本当に理解している人物は、10人もいれば良いところだろう。この書物だけでなく、日本の占いの研究者は古典をありがたがる人が多い。古典にも間違いがあること、思い込みがあること、時代的に合わない部分が出てきていること、などは当然考えなければならないことである。これを忘れている研究者が多すぎる。
例えば、気色のところに、これこれの色が出ていれば一生安泰です、といった表現が出てくるが、気色というのは日々変化するもので、常に同一の気色が出ているなどということは現実的にありえない。そういった例が無数に出てくる。原書を忠実に訳すこと自体はかまわないが、それならそれで「注記」が必要だと思う。
この書物などは、占いが男性主体で行なわれていた時代に書かれた書物であることを、まず伝えておかなければならない。女性に対しての見方、判断の仕方は付け足しなのである。
職業や身分も、生れたときにほぼ定まっていた時代の産物なのである。そういうことも、あらかじめ記しておかないと内容に誤解が生じる。
近年、人相・手相に関しては、特に良書が少なくなった。これは出版業界のほうにも問題があり、本格的な研究書は難しすぎるということで出版したがらないのである。その結果として、いつも似たり寄ったりの初歩的で間違いの多い入門書しか刊行されない。そういう面からいうなら、この書物は真面目に占いと取り組んだ本で、そういう点でなら評価できる。願わくは、もっと現代的で優れた内容の研究書を出そうとする出版社の出てくることと、それに見合う研究者の出てくることを待ちたい。
掲載日:2004年02月02日
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