今年4月に大阪を出発、6月にアメリカに到着し、8月24日に帰国した“太平洋無寄港往復横断”成功の辛坊治郎氏が、自らの番組で帰国後の生活を語った。この中で私がもっとも注目したのは帰国後の食生活が激変したということ。「何を食っても旨い」と表現したのだが、その表現は“長い闘病生活”から自宅に戻ったアントニオ猪木氏と全く同一だった。格闘家は総じて、怪我にはめっぽう強いが病気には弱い。辛坊氏も猪木氏も、どちらも容貌が激変した点でも共通しているが、ふたりとも“ぎりぎりのところ”から日常へと舞い戻ったことは間違いがない。その二人が共通して「何を食っても旨い」というのだ。私は自分が十代の頃に経験した「断食」生活を想い出した。断食から日常に戻って、いちばん感激したのは食事の美味しいことだった。正式な断食の場合、最初は重湯から戻るのだが、その重湯の中の“梅干し一個”が宝物のように旨いのだ。人間は「死と隣り合わせ」の生活をすると、すべてが新鮮に見えてくる。辛坊氏は「シャワーを出しっぱなしで頭を洗う」ことが例えようもないほど「ありがたかった」と述べている。よく、われわれは「感謝」という言葉を使うが、黙っていてもそういう気持ちがわいてくるのは「死と隣り合わせ」から脱した時なのだ。そして辛坊氏は仙人のように「幸せになる方法はね、すべてにおいて飢餓状態になることですよ」と断言している。飢餓状態で一人ぼっちで太平洋のど真ん中で“必死に生きている”状態を経験すれば、誰でも、そこから解放されたとき、平凡な日常に戻った時、平凡だが豊かな日常に戻った時、おのずと“倖せ”と“感謝”を感じることが出来るというのだ。私は前にアフガンの荒野で、水汲みの子供たちが「ぼくたちには何もないけど、神様が居るから元気だよ」という笑顔を見せていたことを記述したことがある。何もない荒野で「神様は輝き」だから、くじけずに生きていけるのだ。何もない荒野では「神様」を信じる以外、どうすれば良いのか。日本でも戦中・戦後の混乱期に、さまざまな新興宗教が乱立して隆盛を極めた。不安の中で必死で生きている人たちには「神様」が必要なのだ。
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