「四柱(子平)推命」という占術は、元々“異説”が多いのですが、その中でも多くの異説にあふれているのが「蔵干」と呼ばれているものに関する異説です。

「蔵干(ぞうかん)」に対しては、すでに“vol.9”の記述の中で若干の説明もしているのですが、ここにあらためて“その全体像”について、明らかにしておきたいと思います。

まず「蔵干」とは一体何なのか、という点についてですが、文字通りでいえば「蔵されて(隠されて)いる十干」ということで、十二支の中に含まれている“十干としての作用”ということになります。なぜ、隠されている十干を求めるのかと言うと、年干・月干・日干・時干は、その総称として「天干=天元」と呼ばれ、年支・月支・日支・時支は、その総称として「地支=地元」と呼ばれ、四柱八字の干支の中に「天元」と「地元」は含まれているのですが、「人元」が含まれていなかったからです。つまり、推命判断の基礎となる“命式”の中に「人元」が欠けているので、それを抽出して“三元による推命学を成立させようとした”ということなのです。

それでは、何故、推命をするのに「三元」が必要なのかと言うと、古来、中国では「運命」が構成される三要素として“「天」・「地」・「人」の三元が必要”と捉えていたからです。「三元」或いは「三才」と呼ばれるものが備わらなければ、“運命が形を成すことはない”という捉え方なのです。これは、すべての中国占術に共通した考え方です。そこで、個々の運命を推し量るために、「人元」となってくれるものを「支蔵干」に求めたのです。

こうして支蔵干(厳密には、年支・月支・日支・時支の蔵干すべてだが、通常は「生まれ月日から求める蔵干」が代表する)は、「人元」として命式を彩り、四柱推命の“核をなす”存在へと変わっていくことになります。日本では「生まれ月日から求める蔵干」を指して「月支元命」とか、ただ単に「元命」と呼ぶことも少なくありません。

それでは、この「人元」(月支元命)である命式上の「蔵干」は、どのような意図のもとに表出されているのでしょうか? 実は、これに関しては“流派”“門派”によって違いがあるのですが、その代表的なものをいくつか比較してみることにしましょう。

★古典原書の「月律分野表」に基づく蔵干

A『玉井奥訣』による蔵干表

月支余気中気正気
月支余気中気正気
戊・壬

B『淵海子平』による蔵干表

月支余気中気正気
月支余気中気正気
戊・壬

C『三命通會』による蔵干表

月支余気中気正気
月支余気中気正気
  庚

★「古歌」に基づく蔵干表

月支余気中気正気
月支余気中気正気

★「節気蔵干」説に基づく蔵干表

月支余気中気正気
月支余気中気正気

★「特異な蔵干」説に基づく蔵干表

月支余気中気正気
月支余気中気正気

*表中「―」の部分は、それに該当する蔵干が存在していないことを表わしています。

これらの蔵干表には、あえて日数を示しませんでしたが、それぞれの蔵干は「月支」への節入り後、何日を経過して生まれているかによって、「余気」「中気」「正気」の“どの気の区分”に属しているかが定まり、“その蔵干”がもっとも強く作用する、とされています。けれども、各期間の日数には様々な説があり、頭から中気を採用しない流派も存在しています。同じ十二支の中でも、中気を用いる流派と、そうでない流派があるなど“統一的見解”“明確な根拠”は見受けられません。したがって“蔵干の区分”というものは絶対的なものではなく、あくまでも“一つの目安”として捉えるべきです。

「蔵干」の根底にあるのは“十二支に隠されている五行作用”です。

「十二支五行」は、十干と異なり“専一ではない”という点が、蔵干を複雑なものとしているのです。そして、その“遠因”としてあるのは、古代エジプトの“デカン思想”なのです。