すでに述べてきたような経緯から、中国に誕生した「四柱推命(子平術)」は、アラビア経由かと思われる「ギリシャ系占星術」(厳密に云うと、プトレマイオス著の『テトラビブロス(四書)』)の翻訳書(唐代の「聿斯四門経」等)よりも遅れて実質的には出現しています。

そして、これまで述べてきたように、四柱推命(子平術)の創生期に撰者・著者となっている『淵海子平』の徐子平、『三命通會』の萬民英の二人が、共に西洋占星術の中国化された姿「七政四余」に関連する『星学大成』(萬民英著)や『徐氏続聿斯歌』(徐子平著?)を、書き遺していたらしいことは注目すべき事実です。

より注目すべきは、著者・撰者が不明な七政四余の書『壁奥経』に記されている「霊合120格」、同じく『琴堂歩天警句』に記されている「富着69格」の謎めいた記述――「格」と呼ばれているものの存在です。

古典的な七政四余の原書として広く知られている『果老星宗』にも、「星格・定格合わせて184の格」という記述がみられます。それぞれの七政四余書で数や名称は微妙に異なっているのですが、いずれも「格」と云う存在について記述しています。

ちなみに、いくつかの「格」を具体的に紹介すると、

「水日居官格」太陽と水星とが官禄宮にあり、才能を発揮して成功も得る。
「火月無光格」月に対立する位置に火星があって、世間的人気が奪われる。
「官福来陽格」官禄宮と福徳宮に太陽・月の光が注ぎ、大成功をもたらす。
「命坐刃郷格」命宮に土星が座っていて、故郷では事故やトラブルを招く。

等といったものが「格」として記述されています。

四柱推命とほぼ同時期に誕生している「紫微斗数」(完全に中国式の虚星占星術)にも、古典的原書においては多数の「格」についての記述がみられます。現代の紫微斗数ではめったに言及されませんが、初期の紫微斗数においては、当然のように多数の「格」が存在していたのです。

ちなみに、いくつかの「格」を具体的に紹介すると、

「明珠出海格」誠実、明朗で、好奇心旺盛、社会的地位と名誉を得られる。
「火月無光格」豪放磊落で世話好き、交際範囲が広く、若くして成功する。
「文桂文華格」博学多才で優雅な雰囲気を持ち、芸術的な分野で成功する。
「日月照壁格」先祖から不動産を受け継ぎ、自らもそれを有効に活用する。

等といったものが「格」として記述されています。

日本式の四柱推命しか知らない方の中には、「格局」といっても何のことなのか分からない方もおられると思います。中国系の四柱(子平)推命に多少なりとも知識のある方であれば、「格」及び「格局」の重要性については理解されていることであろうと思います。推命家の中には、この「格局」を命式の中に見出せなければ「四柱推命の鑑定自体が不可能」とまで極言される方さえいます。

私自身は「格局」というのはあくまで命式の「特長を認識する方法」として捉えていて、必ずしも絶対ではありませんし、どうしても当てはめなければならない…というようなものではありません。それに、格局にこだわると「生時不明」の人を判断できなくなってしまいます。

ともかく、近代までの四柱(子平)推命においては、きわめて重要視されていたのが「格」又は「格局」と呼ばれる「命式の特徴判別法」であったのです。

ただ、今日、四柱推命の多くの流派で採用されている格局の判別法は、現代的に改められたものが多く、しかも近代まで存在していた多くの格局は採用されていません。多くの人は知らないのですが、初期にはもっと多数のユニークな格局(命式の特徴判別法)が存在していたのです。

ちなみに、今は失われた「格(格局)」を具体的に紹介すると、

「日徳秀気格」四柱全体に欠陥なければ、健康運と財運に恵まれ成功する。
「勾陳得位格」四柱に沖・刑なければ、道徳心に富んでいて、富豪となる。
「飛天禄馬格」四柱に午・丁がなければ、行動力あって部下運に恵まれる。
「六陰朝陽格」大運西方を行けば、多くの人達から愛され実業で成功する。

等といったものが「格(格局)」として存在していました。

このように記してくると、「格(格局)」というのは中国占術独特のもので、いずれも中国占術だから存在していたにすぎないのではないか――と思う方が出てくるかもしれません。ところが、中国のお隣インドの占星術にも「格(格局)」に匹敵するものが存在し「ヨーガ」と呼ばれています。

インド占星術の「ヨーガ」は、中国の「格(格局)」と同じく「出生図における特殊な惑星配置」として重要視されています。しかもきわめて古い時代から継承され続けている見方です。

ちなみに、いくつかの「ヨーガ」を具体的に紹介すると、

「ダーナ・ヨーガ」お金と縁があり、人や物に投資することで財を増やす
「ラージャ・ヨーガ」多くの人を動かし、尊敬を集め、社会的名声を得る。
「シャシャ・ヨーガ」疑わしい収入減を持ち、裏ビジネスの人々と関わる。
「ガジャ・ケサリー・ヨーガ」礼儀正しく寛容で、学者として成功を得る。

等といったものが「ヨーガ」として存在しています。

さらに、このような「出生図における特殊な位置と判断」は、イスラム系の占星術で種々考案された「アラビック・パーツ」に源を発しているかもしれません。プトレマイオスの『テトラビブロス』にもアラビック・パーツの一部は記されていて、伝承では古代エジプトやバビロニアの占星術がその先駆者であった…とも言われます。このアラビック・パーツの発展系がインドの「ヨーガ」であったと捉えることは可能です。

ちなみに、ギリシャ系占星術の「アラビック・パーツ」を具体的に紹介すると、

「物質的幸運のパート」ASC+月-太陽。ここで幸運な財産を得られる。
「守護神霊のパート」ASC+太陽-月。高次元の守護霊が見守っている。
「拡大発展のパート」ASC+木星-太陽。戦いに勝利と成功をもたらす。
「愛情獲得のパート」ASC+金星-太陽。異性の人気と愛情を得られる。

等といったものが「アラビック・パーツ」として存在しています。

このように辿っていくと、四柱推命の判断基準として重要視された「格(格局)」の見方・捉え方というのは、「アラビック・パーツ」や「ヨーガ」を経て、「星平会海」→「紫微斗数」→「四柱(子平)推命」に受け継がれ、発展してきた「先天的運命の特徴把握の方法」であったと捉えるべきでしょう。