中国のマンションは日本のマンションに比べると、“安全面”という点で少し見劣りがする。例えば日本のマンションの場合、よほどのことがなければ、ベランダの枠柵から外へ幼児が落ちてしまうことはないよう配慮されている。もちろん中国のマンションでも、ベランダの鉄柵は頑丈だが背丈が低くなっている建物も多い。そのマンションの13階に暮らしていた2歳の男児の父親は、子供がベッドで寝ていることを確認したうえで外出をした。必ずしも安全を怠ったとは言えない。けれども2歳くらいの幼児が、いちばん好奇心が強く、怖いもの知らずで何にでも向かっていく。多分その男児は、自分が寝ている間に父親が居なくなったことで、捜す意識で部屋を巡ったに違いない。そのうちにちょっとした隙間からベランダまで出てしまった。おそらく、その鉄柵の近くに何かが置いてあったのだ。そうでなければ、いくら背丈が低いとは言っても2歳の幼児が枠柵を越えられるものではない。一瞬の間に男児は鉄柵から滑り落ちた。ところが、そのすぐ下の階の鉄柵の隙間に手指が引っ掛かったのだ。尋常ではない様子に下の住人が気付き、ベランダまで走って幼児の手を中に引き入れた。そうは言っても身体は暗闇の外である。鉄柵の下の方に腕が挟まっている状態となったので、抱き上げ引き上げるということも出来ない。異様な状態に、他の住民たちもそこに駆け込み、幼児の腕をしっかり掴まえる。騒然となった。やがてレスキュー隊員が来て、特殊なペンチで慎重に鉄柵を切って、無事、泣き叫ぶ男児を部屋の中に引き入れることが出来た。おそらく2歳であったことが幸いしたのだ。3歳以上なら、鉄柵の隙間に腕が挟み込まれる奇跡は起きそうもない。また仮に挟み込まれても、鉄柵を何本も切らなければ部屋の中に救出が出来ない。よく「命の重さ」というが、レスキュー隊員が辿り着くまで、必死で腕を掴み続けた12階の住人は、その「命の重さ」を実感したに違いない。私は幼い頃、室蘭のイタンキ浜の崖っぷちで、恐怖から身動きが出来なくなってしまったことがある。崖と崖との間には60㎝ほどの隙間があって、そこを飛び越えないと元来た道に戻ることが出来ない。私は動けなくなって泣き出してしまった。その私の泣き声を聴きつけ、一人の青年がやって来た。そして、向こう側の崖から手を差し伸べてくれた。「この手に掴まれ」という意味だった。私は泣きながら、その手にしがみついた。足も動けば良いのだが、足の方は動かないのだ。青年の表情が曇った。下手をすると私の体重で、自分まで滑り落ちてしまう。けれども必死で私の全身を引っ張って、飛び越えさせてくれた。私は泣きながら礼を言ったが、青年は「無茶すんなよ」とだけ言って去っていった。
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