俗に「脱出マジック」と呼ばれているものが有る。マジシャン自身が両手両足を鎖に繋がれ、水槽とか地底の箱に入れられて、時間以内に脱出できなければ“命はない”という危険なマジックだ。日本では昔、初代・引田天功氏がよく行った。“UFO特番”や“心霊特番”と並んで70年代~80年代の視聴者たちを惹きつけた。私がまだ二十代の頃でドキドキはらはらしながら見守ったものだ。近年、再び「脱出マジック」が世界的に注目を浴びている。6月16日、インドで行われた「脱出マジック」に挑戦したのはジャドゥガル・マンドレーク氏(40歳)で、ガンジス川の分流に防弾ガラス箱の中にロープと鋼鉄の鎖で手足を縛られたまま入り、家族、報道陣、警察が見守る中、クレーンで釣り降ろされた。脱出前の話では21年前にも同じようなことをして、その時には29秒かからず脱出できたと自信満々だった。その一方で「鎖が解けたなら魔法だ。もし解けなかったなら…悲劇だ」とも語っていた。そして、魔法はどうなったのか、聖なるガンジスの川に消えたままマジシャンは今のところ生還していない。現地の警察が必死で捜索中なのだ。マジックには当然のことながらトリックがあるが、すぐに見破られてしまうようなトリックとか、危険がないようなマジックでは本人も観客も納得しない。プロ意識が強いマジシャンほど、ぎりぎりのところまで追い込んで臨場感を出そうとする。もちろん、ちょっとでもハプニングが起こるとマジックは失敗し、生命の危険にさらされる。過去には、イギリスのマジシャンが「弾丸受け止めの術」で死亡したことがあり、炎の中に消えるマジックでガス爆発が起こって死亡したこともある。「生き埋めマジック」で失敗し瀕死の重傷を負った例もあり、「水槽脱出」で出られなくなって死亡した例もあり、「人体切断イリュージョン」で自ら妻を死亡させてしまったケースもある。日本では二代目の引田天功氏がイリュージョンに失敗して重症を負った例もある。最近の日本は、スケールの小さなマジシャンばかりで、80年代のような“危険を伴うマジック”はもはや観られない。小手先のマジックも、それはそれで楽しいが、本当のドキドキはらはら感はそこにない。若くして亡くなった初代・引田天功氏のようなスケールの大きなマジシャンはもう出て来ないのだろうか。ガンジスに消えたマジシャンが生還できるかは疑問だが、彼自身は「悲劇」に納得しているのではないだろうか。
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