四柱推命による判断方法は、まず生年月日時から「命式(めいしき)」と呼ばれる四柱干支を表出し、その四柱干支の相互関係を分析するところからスタートします。通常、この四柱干支の八文字以外に「蔵干(ぞうかん)」と呼ばれているものを表出するのですが、その場合、月支の蔵干のみを表出する見方(流派)と、すべての十二支の蔵干を表出する見方(流派)とがあります。
この蔵干に関して、私は若い頃、不思議で仕方がありませんでした。
どの書籍にも、蔵干の表出法(流派により様々です)は書かれてあるのですが、肝心の「蔵干」とは一体何なのか、何のために表出するのか、どうして流派によって表出法が違うのか、「月支蔵干」と他の蔵干とを区別して扱うのはなぜなのか、なぜ月支蔵干をそんなに重要視するのか、月支蔵干の区分(月律分野)はどのようにして生まれたのか……きちんと書かれてある書籍が見当たらなかったからです。
中でも一番不思議だったのは、月支蔵干の区分(月律分野)と、その各区分に配当されている十干の原理でした。そこで推命学における創成期の原書において「月支蔵干の月律分野」とされているものを比較してみました。そうすると、次のような興味深い事実を見出したのです。
『三命通會』(萬民英)による月律蔵干
余気 | 中気 | 正気 | |
寅 | 己 5日間 | 丙 5日間 | 甲 20日間 |
巳 | 戊 5日間 | 庚 5日間 | 丙 20日間 |
申 | 己 5日間 | 壬 5日間 | 庚 20日間 |
亥 | 戊 5日間 | 甲 5日間 | 壬 20日間 |
『淵海子平』(徐子平)による月律蔵干
余気 | 中気 | 正気 | |
卯 | 甲 10日間 | 乙 20日間 | |
午 | 丙 10日間 | 己 9日間 | 丁 11日間 |
酉 | 庚 10日間 | 辛 20日間 | |
子 | 壬 10日間 | 癸 20日間 |
各十二支に対する余気・中気・正気の配当は5日間だったり、10日間だったり、20日間だったりしています。また中気だけは、存在していたり、空白だったりしています。そこで、今仮に1年を360日(360度)と仮定して、余気・中気・正気を10日間で均等にすれば、次のような月律蔵干が誕生することになります。
月の12支 | 余気 | 中気 | 正気 |
寅 | 己 10日間 | 丙(火) 10日間 | 甲 10日間 |
卯 | 甲 10日間 | 乙(木) 10日間 | 乙 10日間 |
辰 | 乙 10日間 | 癸(水) 10日間 | 戊 10日間 |
巳 | 戊 10日間 | 庚(金) 10日間 | 丙 10日間 |
午 | 丙 10日間 | 丁(火) 10日間 | 丁 10日間 |
未 | 丁 10日間 | 乙(木) 10日間 | 己 10日間 |
申 | 己 10日間 | 壬(水) 10日間 | 庚 10日間 |
酉 | 庚 10日間 | 辛(金) 10日間 | 辛 10日間 |
戌 | 辛 10日間 | 丁(火) 10日間 | 戊 10日間 |
亥 | 戊 10日間 | 甲(木) 10日間 | 壬 10日間 |
子 | 壬 10日間 | 癸(水) 10日間 | 癸 10日間 |
丑 | 癸 10日間 | 辛(金) 10日間 | 己 10日間 |
このように配当すると、仮に1年を360日(360度)と仮定すれば、月支とは別に10日間ごと特定の十干(五行)が「蔵干の気」として、我々の人生に影響を与えていることになるのです。
ここで注目すべきは「中気」の十干(五行)で、120度ごとに「火」「木」「水」「金」が来て、蔵干(五行)同士が「三合会局」(正三角形)の法則の元に作用していることです。
一方、西洋占星術においては、古来12星座とは別に、10日間ごと特定の惑星が「デカン」或いは「デカネート」として、我々の人生に影響を与えている…とされてきました。現代占星学では、このデカネートを誤解し「10日間ごと12星座の一つが影響を与える」と教えているのですが、本来は星座ではなく、36の神々(古代エジプト)である恒星が影響を与える(やがて惑星神に変化)期間だったのです。この「デカン」は、ギリシャ語圏では「プロソポン」、ラテン語圏では「ファキエース」と呼ばれましたが、いずれも「顔」を意味し、ルネッサンス期のホロスコープ図では外側に36の顔が描かれました。
古代エジプト王国においては恒星であったデカンが、ギリシャ語圏以降は「10日間ごと影響を与える惑星神」として扱われ、さらに「惑星神の家としての12星座」へと変貌していくのです。こうして現代においては、「デカン」=「デカネート」=「10日ごとの12星座」として、次のような影響が与えられると教えられるのです。
黄道12宮 | 第1デカネート | 第2デカネート | 第3デカネート |
おひつじ座(火象星座) | おひつじ10度間 | しし(太陽)10度間 | いて10度間 |
おうし座(地象星座) | おうし10度間 | おとめ(水星)10度間 | やぎ10度間 |
ふたご座(風象星座) | ふたご10度間 | てんびん(金星)10度間 | みずがめ10度間 |
かに座(水象星座) | かに10度間 | さそり(火星)10度間 | うお10度間 |
しし座(火象星座) | しし10度間 | いて(木星)10度間 | おひつじ10度間 |
おとめ座(地象星座 | おとめ10度間 | やぎ(土星)10度間 | おうし10度間 |
てんびん座(風象星座) | てんびん10度間 | みずがめ(土星)10度間 | ふたご10度間 |
さそり座(水象星座) | さそり10度間 | うお(木星)10度間 | かに10度間 |
いて座(火象星座) | いて10度間 | おひつじ(火星)10度間 | しし10度間 |
やぎ座(地象星座) | やぎ10度間 | おうし(金星)10度間 | おとめ10度間 |
みずがめ座(風象星座) | みずがめ10度間 | ふたご(水星)10度間 | てんびん10度間 |
うお座(水象星座) | うお10度間 | かに(月=太陰)10度間 | さそり10度間 |
黄道12星座は「火」「地」「風」「水」の順で巡り、第2デカネートは120度先の星座(支配星)が位置していて、正三角形の法則(アスペクト)の元に作用していることです。しかも、その支配星は「太陽」に始まり、「水星」→「金星」→「火星」→「木星」→「土星」と進んで、そこからまた逆行し、「土星」→「木星」→「火星」→「金星」→「水星」と進んで、「太陰(月)」に終わっているのです。もちろん、これは18世紀頃まで用いられた「古代の支配星」と呼ばれるもので、肉眼観察可能な7惑星のみを対象としています。18世紀までの西洋占星術に「天王星」「海王星」「冥王星」などは存在しなかったからです。
黄道12星座は、古代から引き継がれてきた≪昼の6星座≫と≪夜の6星座≫とに二分されていました。実は近代まで、古代エジプト王国時代の「夏至点」に位置した「しし座」~「やぎ座」までの6星座は「昼の星座」、同じく「冬至点」に位置した「みずがめ座」~「かに座」までの6星座は「夜の星座」とされていたのです。そして肉眼観察可能な古代の7惑星には、惑星神が住まうための「昼の家(星座)」と「夜の家(星座)」とを持っていたのです。もっとも、「太陽」は「昼の家」だけ、「月(太陰)」は「夜の家」だけですが…。これこそが現代まで続いている「支配星」の真実なのです。
これらを改めて整理すると、次のようになります。
昼の家(星座) | 支配星 | 夜の家(星座) | 支配星 |
しし座 | 太陽 | かに座 | 月(太陰) |
おとめ座 | 水星 | ふたご座 | 水星 |
てんびん座 | 金星 | おうし座 | 金星 |
さそり座 | 火星 | おひつじ座 | 火星 |
いて座 | 木星 | うお座 | 木星 |
やぎ座 | 土星 | みずがめ座 | 土星 |
ここで大変興味深い事実をお見せいたします。
実は、この「支配星の原理」は、そのまま四柱推命における「十二支六合の原理」と一致しているのです。そこで解りやすいように、まず、12星座と十二支とを次のように一体化させます。
12星座=十二支 | 変化する「五行(惑星)」 | 12星座=十二支 |
しし座=午 | 六合(太陽・太陰) | かに座=未 |
おとめ座=巳 | 六合(「水」と化す) | ふたご座=申 |
てんびん座=辰 | 六合(「金」と化す) | おうし座=酉 |
さそり座=卯 | 六合(「火」と化す) | おひつじ座=戌 |
いて座=寅 | 六合(「木」と化す) | うお座=亥 |
やぎ座=丑 | 六合(「土」と化す) | みずがめ座=子 |
つまり、四柱推命における十二支は、西洋占星術の12星座と同じく、古代の7惑星が住まう「家」の役割を果たしていて、「支の六合」として支配星が「昼の家(十二支)」と「夜の家(十二支)」を結びつけ、支配する五惑星(五行)に化することとなっていたのです。