シャンソン歌手&作家の戸川昌子氏が逝った。70年代の人気作家のひとりであった。私は20代の頃、彼女のエッセイ本『生きるのはひとり』だったと思うが、それを読んで大いに感銘したものだ。私の記憶が確かなら、彼女は戦火の中で、本能的に人々が逃げる方向とは逆の方へと走って爆撃を受けず“命拾い”したという。何故、逆方向へと走ったのかはわからない、と記していたような気がする。戦争で父と弟を喪った彼女は「ひとり」ということに早くから目覚めていた。後にさまざまな恋愛遍歴をしたらしいが、40代まで独身を通し、どこか“孤独の影”が付き纏った。写真でしか見たことはないが、30代の頃の彼女は、常に片目が髪で隠れていて“妖しい雰囲気”を放っていた。その本には確か「過去は幻、現在だけが信じられるのである」と特別大きく書かれていた。その言葉が印象に残った。実際、過去は幻に過ぎない。幻だから、人々はそれを“必死”に抱きしめようとする。その本ではなかったが「出逢いという言葉ほど、私に運命を感じさせる言葉はない」とも何かに書かれていた。人の運命は、最終的に「出逢い」がすべてである。それは意図的な出逢いもあるが、予期せぬ出逢いもある。そして「予期せぬ出逢い」の方が「運命」を変える力を持っている。
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