10代から20代にかけて私は映画館へよく足を運んだ。そして、たくさんの映画を見たが、正直、記憶に残っている映画はそれほど多くはない。ただ、どうしてなのか忘れてしまったが、邦画よりも洋画の方を多く見たような気がする。中でもフランスの美男俳優であったアラン・ドロン主演の映画はよく見た。正直、どれも、内容はよく覚えていない。ただ彼には、妙に“もの悲しい表情”をするときがあって、それが“悪い奴”を演じる時、美しい横顔ゆえのリアリティを感じさせた。そこが気に入っていたのだ。だいたい映画などで“悪い奴”が、悪い奴らしい顔で出て来ても印象には残らない。アラン・ドロンのように“非の打ち所がない美男”が、それもかすかにもの悲しい表情を浮かべながら、黙ったまま殺していく姿には吸い込まれてしまいそうな魅力がある。最近の俳優たちは、確かに美しいかもしれないが“もの悲しさ”がない。それはたぶん、意図的に作り出せるものではなくて、持って生まれた、或いは過去の人生の中で自然に培われてしまった“哀しさ”なのだ。実際、アラン・ドロンは不遇な家庭環境で育ち、女性不振に陥り、外人部隊に入隊し、その後、世界放浪に出たりしている。そういう実際の履歴が、その美しい横顔に“翳り”を与えるのだ。眉尻は剣先のように尖り、人中は細くて潔癖そうである。そのアラン・ドロンが俳優業から引退するという。まだ現役で活動していたこと自体知らなかったが、次は最後の作品になるらしい。アラン・ドロンが日本で熱狂的に支持されていたころ、フランス映画そのものも脚光を浴びていた。ところが、いつの間にか日本でフランス映画が上映されること自体が極端に減ったような気がする。アメリカ映画は公開されるが、フランス映画はどうなのだろう。だいたい、日本ではアメリカ以外の“外国映画”そのものの上映が、近年、乏しくなったような気がしてならない。それだけ客の入りが良くないのかもしれないが、日本人受けする映画というのは、われわれが知らないだけで公開されているような気がするのだ。派手なアメリカ映画も良いが、時には“人生”を考えさせるヨーロッパの映画も観てみたい気がする。
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