たまたま黒岩重吾著『どかんたれ人生塾』という死後に発刊された雑誌連載の“人生相談回答集”を読んだ。死後に出ているから遺作だと思うが、小説ではないので本当の意味での「遺作」と呼べるのかどうかは分からない。多分79歳で亡くなった彼の前年に連載されていた“若者向けの人生塾”Q&Aをまとめたものだ。したがって、著者晩年の自宅における写真が多数掲載されている。それ自体、この作家にしては珍しい。私は若い頃、黒岩重吾という作家に憧れていた。まだ二十代前半の頃「彼のように生きたい」と思っていたのだ。当時の黒岩重吾は“社会派推理作家”という肩書で、松本清張や水上勉と並んで“社会派”ブームのけん引役であった。私は“人間観察”という点では松本清張にかなう作家はいないと思うが、そして“秀麗な文章”という点では水上勉が抜きんでていると思うが、その“泥臭い生き方”という点で黒岩重吾が好きだったのだ。それに、もう一つ、黒岩重吾は原因不明の病で“寝たきりの生活”を二年ほど送っているが、その間に「トランプ占い」を習得し、奇跡的に病が回復して後、実際に“トランプ占い師”として生活していた一時期がある。そういう点でも、何かしら親近感があった。彼の場合、“社会派推理作家”としてデビューしたが、その後“通俗作家”的な作品を多数書くようになり、やがて“古代史に基づく小説”へと転換していくようになる。そして時々、特異な人生経験を基にしたエッセイ集も出した。私が最初に読んだのも、書名は忘れたが、そういうエッセイ集であった。つまり、どん底の気分でいた時、彼の書いたものを読み、その“活火山のような情熱”に打たれたのだ。“寝たきりの生活”の中でも、必死に前を向き、這い上がろうとする人たちがいる。それに比べて“自分はなんて甘いんだろう”と反省したのだ。だから、彼は私の中では「恩人」なのだ。久しぶりに、彼の本を読み、それも亡くなる前年の“人生塾”をよみ、肩を叩かれたような妙な気分だ。
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