十代から二十代にかけ多くの人がかかる病に「恋の病」がある。ところが、この病、現在に至るも特効薬がない。人によってさまざまだが、私の場合は十代後半の頃が一番症状が重かった。とにかく簡単にかかってしまうのだ。ちょっと風邪の症状に似ている。何しろ熱が出る。心臓がバクバクする。喉が干からびたようになって、言葉が出てこない。うんうん魘される。胸が張り裂けそうだ。そういう症状が続くケースが多かった。いったん治っても、すぐまた同じ病で寝込むのだ。今になって考えると、どうしてあんなに次々簡単にかかってしまったのか、不思議な気がする。誰かが「若い人はかかりやすい」と言っていた。心ひそかに持病なのかなと思っていたが、免疫が出てきたのか徐々に間が空き、やがてかからなくなった。そして今では完全に完治してしまって、微塵も症状が出なくなってしまった。それはそれで妙に寂しい。あの“やばいクスリ”にも似た(?)苦しいほどの高揚感が失われてしまったからだ。さらに“ひたむきさ”も、あの病に侵されたときの特徴だ。すべてのものを失ってでも“追い求めようとする情熱”が、あの病のすごいところだ。なぜ完治してしまったのだろう。体質が変わったからなのか。環境が変わってしまったからなのか。一説には、この歳になって“あの病”にかかると重いとも言われる。周囲からも、ずっと治らないと突き放されるようだ。それはそれで辛いのかもしれない。高揚感や情熱が失われたとしても、やっぱり完治して良かったのだろうか…。
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