年金暮らしの89歳になる老人が、その孫である23歳の容疑者に“鋏で滅多刺し”にされ、現金「2万3千円」が奪われた。被害者は自分の父親で、加害者は自分の息子だった。こういう場合、父親を刺され、息子が刺した現実を、被害者の息子であり、容疑者の父親である人物は、どう受け止めれば良いのだろう。しかも、その原因となっているのは、わずか2万3千円のお金である。ただ、それだけなのだ。もちろん、実際には、ただ“それだけ”ではないのかもしれない。例えば、祖父は孫に対して「お前に与える金はない」と言い、或いは「今日は1万しかやらん」と言ったかもしれない。孫は「冗談じゃねえよ、年金入ってんだろ」と言ったかもしれないし「ガキじゃねえんだよ、十万出せよ」と言ったかもしれない。どういうやり取りがあったか知らないが、結果的に祖父は孫に“滅多刺し”にされ、亡くなってしまった。容疑者は否認しているが、彼の部屋から“血塗れのジャンバー”が見つかっているというから反論の余地はない。老人は近所の人達にも、孫が頻繁に“金をせびりに来る”と言って嘆いており、途方に暮れていたに違いない。もしかすると、十代までは自ら“頻繁に金を与えた”ことが、こういう結果につながったのかもしれない。そういう意味では“甘やかした張本人”であった可能性はある。それが二十代に入り、一方は“無心が当たり前”となり、一方は“蓄え”が乏しくなって、年金から支出するように変わった。これまで笑顔で渡していたものが、しぶしぶ渡すように変わり、双方ともに小言まで言い争うように変わった。徐々に二人の関係は“借金の貸し借り”のような関係へと変わった。孫は“悪徳金融業者”に扮し、祖父は“弱みある返済者”に扮した。そういう関係が日常となり、かつての「麗しい祖父と孫の関係」は消えてしまった。最後は、双方とも“憎しみ合う”殺し合いで、力の強いものが勝利した。
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