親戚が集まった時、表立っては言えないけど、誰もが暗黙に頷き合うような“死”というのがある。この場合も、きっとそうだったに違いない。親戚たちは二度集まり、棺は二つ並べられていたからだ。そして誰もが神妙だった。こういう時、普通は一人くらい明るく振る舞う親戚がいるものだが、怖いのか誰もが無口だった。インドネシアのスラワエシ島トラジャでは、伝統的に葬儀場は高床式になっている。比較的大きく長めの棺は親戚の人達多数で担ぎ、街を練り歩きながら葬儀場まで運ばれていく。運ばれた長い棺は、高床式で華やかに飾られた葬儀室まで階段を上って安置される。ところが、この階段がなぜか途中で壊れたのだ。棺は宙に浮き、そして一人の人物を斜め上から直撃した。生前、その母親が誰よりも可愛がっていた息子目掛けてだった。辺りは騒然となった。その息子はすぐに病院へと救急搬送されたが息を引き取った。こうして、二つの棺が葬儀室に並べられる形となったのだ。今度は階段は崩れなかった。こういう時、物理的には階段が頑丈でなかったから壊れたとか、持ち上げ方に問題があったとか、理屈をつけるものだ。けれども、誰もがぽつりと「一番可愛がっていたからねえ」という。「あいつも誰より慕っていたからなあ」という。時々、理屈では割り切れない現象が起こる。多分、誰も“悪くない”のだ。夢の中で、すでに故人となっている人物が白装束や黒装束で現れ、本人に対して“行こう”と親し気に誘って来ても、決してその後をついて行ってはいけない、という。夢の中でついて行ったなら、必ず、現実の世界の中で「向こうの世界」に案内されてしまう出来事に遭遇するからだ。
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