俳優・高倉健氏が亡くなって3年が経過した。多くの俳優から尊敬されていた俳優だが、その私生活は“謎”に満ちていた。その“謎”の部分を追求したノンフィクションが『高倉健 七つの顔を隠し続けた男』(森功著)である。私個人は、正直、あまり好みの俳優ではなかったが、ただ彼が持つ独特の「翳り」には興味があった。人間が持つ個々の“雰囲気”というのは、長い歳月の中で形成されていく。けっして数ヶ月とか一年とかで“形作られる”ものではない。彼には、どこかに“消しようのない翳り”があった。人間の“翳り”は、その人を“斜め横”から見た時に、一番はっきりと出る。なぜだろう…と、いつも思った。彼が歌手の江利チエミさんと結婚し、その後に金銭問題などが起き、離婚し、あっという間に亡くなって、その元妻への“何か”がそうさせているのだろうか…とも思った。ただ、それだけではない気もしていた。それらに関して、この本は、或る程度の答えを与えてくれる。彼は高校ではボクシングを習い、大学では相撲部に入って、夜は渋谷で酒とケンカの日々を過ごしていたらしい。そうして暴力団「住吉会」の幹部に気に入られ、その運転手として勤めていた時代があり、彼らの元で“居候”をしていた時期もあったらしい。ナルホド彼の“らしさ”には、経験が持つ重みがあったのだ。しかし、この本は、そこに重点を置いているのではない。高倉健氏は亡くなる直前に養女を得ていた。「小田貴」という女性だ。元大部屋女優でホテルジャーナリストをしていた過去を持つ。彼女こそ40億とも言われる遺産を相続した人物なのだが、高倉健氏の死を実妹にも知らせず、二日後には火葬し、遺言ということで“散骨”した。実妹は分骨を望んだが、それもならなかった。元妻・江利チエミの墓、彼女が身ごもった水子の墓は、彼の死後に撤去されてしまった。家屋敷もそうであり、多数の車やクルーザーまで処分してしまった。「高倉健」そのものの“痕跡”を遺すまいとするかのように、次々と処分していった。養女との出逢いは90年代の香港のホテルらしいが、その後の二十数年を共に過ごした女性なのに違いない。著者は、彼女が“養女”であるのは、放映権なども自らが取り仕切りたかったからだと述べているが、私はそうは思わない。多分、高倉健氏は元妻・江利チエミさんが亡くなった時、もう結婚だけはすまい、と心に誓ったのだ。そして、律儀にそれを守ろうとした。けれども、新しい同棲女性はそれが許せなかったのだ。“死”が近くなって、“養女”の権利だけは強引に手に入れたに違いない。多くの映画でそうであったように、近づく女性を“幸せに出来ないまま”逝ってしまったのだ。
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