職業的にみて「絶対にやってはいけないこと」というのがある。例えば、警察官が特殊詐欺に遭いそうになった人のお宅に出向いて行って“詐欺をする”なんて、これはどう考えたって救いようがない。親切そうだった現職の警察官が、実は“詐欺でした”って、あまりにひどすぎてドラマにも出来ない。「そんな警察官はイヤだ」って言われても、なんだか笑えない。そういう話は海外の話と相場が決まっていた。いつから我が国は、こんな哀しい国になっちゃったんだろう。昨日、京都府警は山科署の現職巡査長・高橋龍嗣(38歳)を詐欺の容疑で逮捕した。2018年11月8日と15日の2回にわたって、同じ78歳の男性から500万と680万を詐欺して連絡を絶ち、その高齢者から警察に相談があって判明した事件だ。最初の日は、実際には巡査部長と共に、高齢者宅を訪れ、巡査部長が席を外したすきに、自宅内にあった500万円を「特殊詐欺にあったらいけないので、お金を預かる」ということで受け取っている。考えてみれば、これほど大胆な犯行はない。どうして、そういう流れになったのかというと、その日、その男性は危うく“特殊詐欺”に遭いそうになった。自ら金融機関に出向いて、680万円のお金を引き出そうとした。何となく不審なものを感じた担当者が警察に連絡を入れ、警察官が出向いて説得し、引っ掛からずに済んだのだ。その日のうちに、今後の対応と正式調書を採るため巡査部長と巡査長である高橋龍嗣とが、その男性宅へと向かった。そのお宅訪問時に容疑者は詐欺を働いたのである。送金に“待った”をかけた警察官が、まさか自宅まで来て“詐欺を働く”とは高齢者でなくても考えない。だから男性は巡査長に言われるまま500万円を差し出した。おそらく何の迷いもなく差し出したのだろう。その様子から容疑者は、もう一度やってみよう、と思ったに違いない。ただ、ここで重要なのは、もう一度やったから発覚したのだが、もし最初の時だけで止めておけば、容疑者が「高齢男性の妄想じゃないですか」と言い逃れることが出来た可能性がある。何の証拠品も残ってはいなかったからだ。ところが、もう一度やっても成功しそうな気がした容疑者は、今度は前日に金融機関へと電話を入れたのだ。「先日の男性がどうしてもお金をおろしたいといっているので680万円の出金手続きを進めて欲しい」金融機関の方ではおかしな指示だなとは思ったが、現職警察官からの指示なので、指示通り出金の用意をした。こうして2回目も詐欺に成功したのだ。ただ、この金融機関への“おかしな指示”が決定的な証拠となった。容疑者は高齢者を騙しただけではなく、金融機関をも騙したのだ。そういう意味では“プロの詐欺師”と何ら変わらない。初回だけなら、単なる“出来心”という言い訳も成り立つが、2回目は現職警察官という立場を利用して双方を騙したという点で、もはや救いようがないのだ。
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