「紀州のドンファン」と呼ばれた資産家・野崎幸助氏の“怪死”から一年が経った。事件当初、55歳年下の新妻と30年来交流あった家政婦とが疑われたが、その容疑も消えつつある。私は当初から、この事件は「迷宮入り」するだろうと見ていた。55歳年下の新妻にも、公私とも親しかった家政婦にも、野崎氏を殺害するような動機はないし、死因となった覚せい剤を入手するルートもない。私は野崎幸助氏の生年月日や新妻の生年月日を知っているが、お二人のホロスコープを見ると、なぜ55歳もの年齢差がありながら結婚したのかがよく解かる。よく“財産目当て”だという人がいるが、この女性は元々が裕福に育っているので、あまり“お金”に執着がない。野崎氏に“拝み倒され”仕方なく結婚を“引き受けた”にすぎない。彼女は、自分を愛し、自由にさせてくれるであろう資産家を「可愛い」と思ったに違いないのだ。だから結婚を引き受けたのだ。彼女は、自分がそれなりの美貌は持っていたが、それ以外には取り立てて“取り柄がない”ことを自覚していた。だから、そういう自分に“晩年の愛”を捧げようとする老人を可愛いと思った。自分は、もう一つの住まいを東京に持ち、普段は自由に遊び暮らすことが出来、時々和歌山の夫の元に逢いに行けばよい。彼女は、この資産家が自分を“高価な絵画”と同じような意識で、傍に置きたいのだなと感じだ。自分自身も、働くことは得意ではなく、何をやっても長続きしない性格なのは解かっている。ただ自分の中では“結婚という名のビジネス”としての意識もあったから、彼が大々的に“結婚式”を挙げようとした時だけは反対をした。入籍するのはOKでも、身内に知られるのはごめんだった。だから入籍した後でも、自由に東京と和歌山とを行き来した。それが条件だったからだ。いつも、老人は寂しそうに自分の車を見送った。彼に対して「愛情がないのか」と言えば、そうでもなかった。祖父に対して抱くような愛情はあった。だから一緒に歩くことも嫌ではなかった。時々、寂しそうな表情を見せるのも好きだった。自分と同じような“永遠の安らぎ”を求めているのが感じられた。愛されていることは解かったが、自分の中の“孤独感”は決して消えなかった。「週末だけでも和歌山の方に来て欲しい」という彼からの要請もあって、4月からはひと月の内の三分の一くらいは和歌山で過ごすことになった。家政婦もいるので、家事はやらなくて良かった。時々、その家政婦と二人になったが、新妻にとっては感謝しかなかった。だから、彼女の給料を上げてあげるよう夫に頼んだりした。そういう中で、突然、夫は“不可解な死”を遂げた。もっとも嫌っていた“世間にさらされる状態”となってしまった。まさか、自分がその後になって、まるで“本当の妻”のように、夫亡きあとの会社を引き継ぎ、その従業員たちから「社長」と呼ばれるようになるなどとは夢にも思わなかった。まるで、夫の幸助が、生前出来なかった“妻としての足かせ”を与え、永遠に「野崎幸助の妻」として生きるよう計らっていたかのようでもあった…。
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