近年、一般に知られるようになった“病気”の中には、昔なら“病気”とは考えられなかったようなものも含まれている。ここ20年で急速に増えて来たものの一つが“窃盗”の再犯率である。20年前には12%だったのが、最近は20%に上昇しているのだ。そして、この事実は同時に「窃盗症」という“病気”の増加と深く関わっているらしい。つまり「モノを盗んでしまう」という病気の増加だ。お金がないからではなく、そのものが欲しいからでもなく、或る種のスリルと達成感、そして何よりも“寂しさを紛らわせる”手段として、窃盗を繰り返してしまう。心に傷を持つ病なのだ。アメリカなどでは「クレプトマニア(窃盗症)」として本格的な研究が進んでいるらしい。昨日、この病として処理された一人の男性の裁判があった。長年母親の介護をし、その母親が亡くなって後、うつ病とアルコール依存症になり、約3年前から書籍などを盗む“窃盗症”に変わった。この春にも“執行猶予判決”を受けたのだが、その3日後、再び書籍を万引きしてしまった。「盗みたい」という気持ちが罪悪感より上回ってしまうのだという。彼は、今後は施設に入所する形で治療を受けることになるらしい。少子高齢化の日本は、これからますます“孤独な人達”が増えていく。長期的に介護を行う人も増えていくし、この病気と重なり合うことが多い“うつ病”“依存症”“摂食障害”の人達も増えていくに違いない。それらの“最終形”として「窃盗症」があるのだとしたら、人は何よりも“寂しさ”に弱い生き物だということだ。本当は周りの人達と“心が繋がっていたい”のに、誰とも本当の話は出来なくて、背負うものばかりが大きくなっていき、その重さにひいひい呻きながら人生を歩み続けている。そういう人たちのなんと多いことだろう。本当は皆な“寂しい”のに、寂しいそぶりも見せず、独りになって、もう一人の自分に“しょうがないね”と呟いている。みんな同じなのに、それを分かち合うこともできない。いつから、そういう“世の中”になってしまったのだろう。
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