大昔、私がまだ子供だった頃、TVではアメリカの「西部劇」が放映されていた。その内容は日本の「チャンバラ映画」に似ていたが、そこに出て来る保安官にはどこかヒューマニズム(優しく言えば人間的な思いやり)が漂っていて、ただ単に“悪い奴らは殺してしまう”ような場面は決して出なかった。そういうTVドラマを見て育った私には、どこかで“アメリカの良心”を期待する部分が残っていて、近年のアメリカからそれが失われつつあることを受け入れがたい部分がある。けれども、現実にはそれを受け入れなければならない事件が頻発しつつある。例えば3月18日、一人のアフリカ系アメリカ人の男性が警察官たちから銃撃を受け、命を失った。この警察官たちは、パトカーに乗っていて「男が車の窓ガラスを割っている」という通報に基づき、現場に向かう途中で容疑者らしき人物が建物の庭に逃げ込むのを発見、それを追いかけて直ちに包囲し、建物の庭になだれ込み、男に対して一斉射撃した。まさに問答無用の銃撃である。なぜ、このようなことをしたのかというと、庭に逃げ込んだ人物が両手を上げて背中を向けたからである。アメリカの場合、警察官に取り囲まれたなら、このポーズがお決まりになっている。そうでなければ、それこそ銃撃されても文句は言えない。武器の無いこと、抵抗はしないこと、その意思表示としてのポーズなのだ。ところが、この時、クラーク氏は一つだけミスをした。携帯電話を手放さなかったのだ。それが光を発して、警官たちに「銃を持っている」と誤解させたのだ。結局、一斉射撃の標的となってしまった。こうして、彼は何ら武器も持たず、警察官に背中を向けていて、抵抗もせず、しかも、犯人でもなかったのに、一斉射撃を受けたのだ。昨日、検視の結果、8発の銃弾とも背中から撃たれていて、つまり彼は後ろ向きで、警察官たちには何の脅威もなかったのに発砲していたことが改めて証明された。しかも、彼が逃げ込んだとされた場所は、祖父母の家の庭だった。アメリカのヒューマニズムは死んだのだ。一般市民が“銃を持っている社会”とは、警察官たちに「撃たれる前に打て!」という精神を培わせるのだ。
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