たまに“やりきれない事件”というものが起こる。昨日、東京の児童養護施設「若草寮」で施設長である大森信也氏(46歳)が暴漢に襲われ、胸や腹など数か所を刺されて病院に運ばれた後に死亡した。暴漢はその場で取り押さえられたのだが、4年前までこの施設で3年間生活していた田原仁(22歳)であった。容疑者は鍵のかかっていない玄関から入って施設長室に入り、その部屋にいた大森氏に持ってきた包丁で襲い掛かったと思われる。ちなみに容疑者が入所していた当時の施設長は別人だが、施設そのものに“恨み”があったので誰でも良かったと供述している。ここは親と暮らせなくなった6歳から18歳までの児童たちを預かっている施設で、田原自身も15歳から18歳までここで過ごした。その謂わば“実家”ともいうべき施設に対して包丁を持って仕返しに来たのだ。現在の田原は住所不定・職業不詳と報道されている。そうすると、この施設を出て以降、彼は仕事にも住居にも恵まれていなかったか、自ら流転を繰り返していたものと思われる。そうして自らの人生を振り返った時、“実家”に相当する「若草寮」は“社会への原点”となり、本当の実家は眼中になかったと思われる。彼が“親と暮らせない”事情は分からない。けれども、彼自身の中で“実家”に相当するのは「若草寮」だった。そうだとすれば、その施設で働く人たちは“親代わり”と映る。早い話、18歳になって寮の規定から社会に放り出された児童が、結局上手く行かず、親元に“殴りこんで来た”というのが実情であろう。今の施設長である大森氏は人一倍、子どもたちの“未来”に希望を抱いていた方で、2015年6月に出した『子どもの未来をあきらめない、施設で育った子どもの自立支援』という著書でも、児童養護の必要性を熱く訴えている。職務というだけではなく、心から預かっている児童たちの“行く末”に希望を託していた方なのだ。実は昨日、私はたまたま少年院からの子供たちを受け入れている養護施設に関するドキュメンタリーを見ていた。そのすぐ後の報道だっただけに、何とも言えない気持ちになった。こういう表現は誤解を招くかもしれないが、世の中に根っからの「ワル」はいる。それでも「あきらめない」と果敢に向かっていったのが被害者だったのだ。
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