その人との関係がプツンと切れると、人は誰でもその人と最後に逢っていた映像で記憶に残す。そして時間がそこで止まる。何年経っても、何十年経っても、その人は「あの時」のままである。こうして多くの人は“愛する人”を記憶にとどめている。「めぐみ」さんを北朝鮮に拉致された横田早紀江さんの中で娘の誕生日は54年目なのだが、映像は13歳のままである。だから、彼女が逢いたいと想うのは、戻って来てほしいと思うのは、中年を過ぎた娘ではなく拉致された13歳の娘なのだ。言葉少なに昨日、横田早紀江さんは54歳になっているはずの“娘の誕生日”にコメントを寄せた。82歳になった今、一時期ほどの活動力はもうない。体力が許さない。それに、一緒に活動していた夫の滋氏は入院中なのだ。もう十分すぎるほど手は尽くした。その講演回数は1400回を数える。熱心なクリスチャンでもある彼女は、おそらく神に対しても毎日祈り続けたことだろう。それでも、無情なままに月日は過ぎた。2002年の時、突如、横田めぐみさんの娘だというキム・ヘギョンさんが出現する。この時、ヘギョンさんは14歳だった。つまり“拉致された娘の年齢”と一つしか違わなかった。その“孫”は泣きながら「祖父母に逢いたい」「一緒に暮らしたい」と言った。けれども横田夫妻は北朝鮮まで行って逢おうとはしなかった。周りの拉致被害者たちが、そこで“幕引き”になることを恐れたからだといわれる。それから12年が経って、今度はモンゴルという第三国で、すでに結婚し、出産して“赤ちゃん”を授かったヘギョンさんと横田夫妻は逢うことが出来た。なぜかそれ以降、横田滋氏の口が重くなった。或る意味で、孫とひ孫に直接会えたことは、この上ない喜びであったはずだ。けれども、娘と逢えたわけではない。また、逢えたといっても、一瞬にすぎなかった。孫とひ孫に会えたことが、その一方で哀しみを増幅させたかもしれない。運命学的には、もし、ヘギョンさん14歳の時、彼女を日本に迎え入れて“事実上の娘”として育てれば、横田夫妻は幸せを半分取り戻せたかもしれない。孫を娘のように傍において育てている夫婦はたくさんいる。けれども、横田夫妻は“本物の娘”にこだわった。私にも、もう15年ほど逢っていない娘がいる。たまに夢に出て来るが、決まって記憶に残る少女姿である。ところが実際には、もう27歳のはずだ。私は冷たいのか娘の誕生日も忘れがちだ。向こうも似ているのか、冷たいもので年賀状さえ来ない。
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